フィンランドから初上陸! 前代未聞のフリマイベントのつくりかた #EventSalon4 開催レポート

今年5月、フィンランドの人気イベント「クリーニングデイ」が鎌倉に初上陸! なんとコレは“町全体が会場になる”スタイルの前代未聞のフリマ。しかもコンセプトは、リサイクルでもリユースでもなく“アップサイクル”。な、なんだそりゃ!? 主催者の森下詩子(うたこ)さんに、開催秘話を聞きました!

「クリーニングデイ」の仕掛け人はこんな人!

「私はここ10年、映画の配給や宣伝の仕事に携わってきました。2011年からは『キノローグ』というワークショップのプロジェクトを運営しています。ドイツ語の「映画(kino)」と英語の「対話(dialogue)」をあわせたネーミングの通り、映画をみたあとに対話するという内容のワークショップです」

この「キノローグ」にぴったりの映画を探す日々を送っていた森下さん。去年の8月、『365日のシンプルライフ』なる1本のフィンランド映画に出会ったといいます。

「この映画は、フィンランドの若者が自分の持ち物を全部倉庫にあずけて、そこからモノを1日1個選んで持ち帰る1年間のドキュメンタリー。2万個あった自分の持ち物を365コにし、『自分にとって必要なものは何か?』ということを考えるというストーリーです」

主人公は、奇人でもなく変人でもない、ごくごく普通のお兄ちゃん。「ものに囲まれて暮らすってどうなんだろう?」と思ったことをきっかけに、この映画を作ったといいます。

ちなみに、映画の記録はニューイヤーの幕開けとともにスタート。1月1日の雪の中を全裸で倉庫へダッシュした彼が掴みだした記念すべき1コ目の品物とは……パンツではなくコートでした。これぞ寒い国のリアル。

「フィンランドでも、この映画に共感した人は多かったようです。なんと、実際にやってみた人もいたくらい。映画の彼ほど極端じゃなくても、1つ何かを買ったら1つ何かを誰かにゆずるようにするとか、自分ができる範囲でモノとの距離を見つけていく。そんな意識がフィンランドでは広がっているようです。そして私は私で、映画をみたあとに自分の暮らしを見直せるのが面白くて、本作を買ったのです」

これまでは、「映画をみたあとは対話」という形でワークショップをひらいてきた森下さん。この映画を通して自分とモノの関係を真剣に考えたとき、実際にアクションできる「場」があればもっと面白そうだと考えたといいます。

その「場」としてひらめいたものこそ、フィンランドを訪れる中で知った「クリーニングデイ」でした。

そもそも「クリーニングデイ」ってなんだ?

「クリーニングデイとは、フィンランドで5月と8月の年2回にわたって開催されている“アップサイクル・カルチャー・イベント”のこと。“アップサイクル”は耳慣れない言葉ですが、『モノを再利用する(リユース・リサイクル)』だけでなく、モノに新しい価値や有用性を見出すことを指します」

クリーニングデイ

クリーニングデイ・ジャパン ロゴ

イベントの顔となるロゴも、北欧らしく印象的です。

「オフィシャルサイトに登録すると、クリーニングデイ開催日はどこでも、誰でも、自由にフリーマーケットを開くことができます。フリマといえば、指定の場所に出展料を払い、売れるかわからない私物を持って行って、売れ残れば持って帰るのが一般的。その点、クリーニングデイは自分の家や近くの公園など、どこで開いてもOKなんですよ」

実際、フィンランドでは2014年5月開催の第5回に参加した会場数はなんと4,500以上。町全体がフリーマーケットになるような形で、2012年のスタートから拡大を続けているんだそうです。

さて、このプロジェクトにビビッときた森下さん。「いま、自分には必要ないけれど、誰かに使ってほしいと思うものに命を吹き込む。そういう楽しさで、地域とつながり、世界ともつながっていく。そういうムーブメントを日本でも起こしたいと思いました」

どうやって日本へ輸入した?

「2013年11月に、クリーニングデイ・ジャパンを開催したいと現地のオーガナイザーに申し出ました。そんなことを言い出したのは世界で初めてだったようです。『いいじゃん! やりなよ』と快諾されました」

クリーニングデイ・ジャパン 森下詩子

場所は、もともとエコロジーに理解がある鎌倉をチョイス。そして、ほかのフリマイベントとの差別化をはかるため、本場の“アップサイクル・マーケット”をコンセプトとして設定しました。

日本での記念すべき第1回目は5月24日、フィンランドと同時開催の形で実現。当日は、いまをときめくファブラボやパタゴニアなどの協力のもと、4つのワークショップ&トークイベントも開催しました。これぞ、いまだ知られざる新たなスタイルのフリマの魅力、アップサイクルの良さを、来場者に“教える場”となったようです。

その内容をカンタンにご紹介しましょう!

●「アップサイクルを体験するワークショップ」(会場:パタゴニア鎌倉ストア前)
鎌倉の企業提供の廃材を使って、新たに価値あるモノを生み出すワークショップ。

●「壊れかけたものを直すリペアカフェ」(会場:FabLab Kamakura)
イギリスのシリコン材SUGRUを使って、現代版金継ぎを体験できるワークショップ。

●「『365日のシンプルライフ』上映ワークショップ」(会場:鎌倉・旅する仕事場)
モノと自分の関係性を考えるきっかけとなる映画を鑑賞し、対話(ダイアローグ)をするワークショップ。各映画館での封切は8月中旬だったため、超先行上映に。

●「アップサイクルを学ぶトークイベント」(会場:ソンべカフェ)
岡山・鹿児島でクリエイティブユースのラボ「IDEA R LAB」を運営する大月ヒロ子さん、「パタゴニア」日本支社・環境プログラム・ディレクターの篠健司さんによるトークイベント。

「イベントを行うにあたり、『どうすれば、自分でやる気になってもらえるか?』ということを一番に考えました。答えは、すぐ実行できるヒントを提示して、みなさんのマインドに火をつけること。なかでも映画は、観客の心に火をつける力が強い。このイベントで『365日のシンプルライフ』を上映したのは、そういう意味でもあるのです」

初体験のポイントは?

きたる8月30日には日本全国に拡大予定のクリーニングデイ。森下さんのもとには、「やってみたい!」という声も多く寄せられているといいます。自分が暮らす地域で開催したいときはどうすればいいんでしょう?

「まず行っていただきたいのは、フィンランドの公式サイトに登録すること。英語なのでかなり面倒なのですが、それで世界とつながることができますから。今、Kamakuraも開催地の一つとして公式サイトに表示されているんですよ」

開催したい旨をクリーニングデイ・ジャパンに知らせれば、告知もすると森下さん。まずはフィンランドの公式サイトでつながることが大切だそう。

「クリーニングデイの良さは、自分のいらないものも、誰かの宝物になりうる点。同時に、サスティナブルな世の中になるように、できることを気軽にはじめられる点。コミュニティを通して、地域とつながれる点……とさまざまなメリットがありますが、ものを生む活動は子どもにとっても良い勉強になります」

と、まじめな顔で話していた森下さん、ふと顔をほころばせて――。

「あとは、やっぱり楽しいことですね! 屋外で、みんなで集まってお祭りみたい! 楽しさがなかったら意味がないと思います。そして、ただのイベントではなく、マインドに火のついた人からビジネスへと波及し、自然な習慣として根づいてくれたらいいなと思います」

いまだ耳慣れぬ“アップサイクル”をコンセプトとした新しいフリーマケット。その勝因はきっと、フリマ開催の場所に“アップサイクル”にまつわる映画やワークショップをドッキングしたこと。

まさに“考えるな、感じろ”の世界。新たな価値観を伝えたいときは、能書きを書いて説明するより、みんなが肌で“良さ”を感じられる場所を設けるとよいのかもしれません。

(文章:矢口あやは)

森下詩子

森下詩子 プロフィール
kinologue主宰/クリーニングデイ・ジャパン代表

映画配給・宣伝に約15年携わり、2011年より映画とダイアローグのワークショップ・プロジェクト「kinologue(キノローグ)」を主宰。これまでに東京・南相馬・ヘルシンキ・鎌倉で計17回開催。数年前から毎夏フィンランドに滞在するようになり、ヘルシンキは第2の故郷となる。昨年フィンランドで見つけてきた映画『365日のシンプルライフ』を、パンドラと共同配給で8/16よりオーディトリウム渋谷他にて公開予定。フィンランドと同時開催で、アップサイクル・カルチャー・イベント「クリーニングデイ」を5月24日に鎌倉にて初開催。8月30日に第2回を全国で開催予定。


 

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