本日最後の登壇者となるのは、4月から東京大学の情報学科特任教授に就任し、ワークショップデザインに関する研究を行っている安斎勇樹さん! 研究成果を教えてくれるとともに、EventSalonの”アカデミック担当”としてOpen Street Map・深夜徘徊・Burning Japanの共通点を分析!? 導き出された「面白いイベント&ワークショップの条件5つ」とは――。
ワークショップってなんだっけ?
「ぼくは普段、大学でワークショップデザインを研究しています。これは、場が盛り上がったり、会話が弾んだり、新しいアイデアが生まれやすくなったりするワークショップとはどういうものか、といったことを探る研究です。最近、ワークショップと名がつくイベントも増えて、みんなで何かをする“グループワーク”=“ワークショップ”だと捉える風潮もありますが、ぼくはそこをイコールだとは考えていません」
あれ、ちがうんですか!? では、そもそもワークショップの定義って?
「ポイントはグループだということではなく、普段とは異なるものの見方をして発想する、体験するということなのです。その点を重視しながら、みんなとコラボして学んだり、作り出したりすることで、日常の見え方が変わったり、新たなアート作品や商品アイデアが生まれたりする。それがワークショップの良さであり、魅力だと思います」
クリエイティブ性を高める「矛盾」
ワークショップも、イベントも、いわば“生もの”。神がかったように面白い回もあれば、なぜかつまらない雰囲気になってしまう回も……。しかし、安斎さんの研究は、その中から「面白いワークショップになる条件」を科学的にあぶりだす挑戦。そのステキな条件は、本当に“ある”んでしょうか?
「確かに、人間は不安定な生き物なので、『こう設計したら、こういうアウトプットになる』とはいえません。ワークショップを“エンジニアリング”するのはむずかしい。でも、“デザイン”することならできると思っています。なぜなら、他の領域のデザインと同じで、ワークショップも初心者と10年以上手掛けたベテランをくらべると、クオリティに大きな差が出るから。エキスパートたちによるワークショップは、企画の発想や対応に何らかの共通項があると感じました」
その暗黙の共通点を解明できれば、方法論として成立すると思ったのが研究のきっかけだったそう。
「ぼくがワークショップをするときは、参加者の発話を全て記録しています。そして、後でじっくり分析するのです。過去に行ったカフェのワークショップでは、『居心地がいいカフェを作る』というテーマの回と、『危険だけれど居心地がいいカフェを作る』というテーマの回をそれぞれ設定。どちらが活発にアイデアが生まれるのかを調べました」
結果は、「危険だけど居心地がいいカフェ」の回のほうが、活発にコミュニケーションが起きたのだそう。あえて意外な設定や矛盾を盛り込んだほうが、クリエイティブ性が高まるようです。
価値観を突き崩す設定を考える
「最近は、商品開発や新しいサービス作り、組織のビジョン改革などの手段としても、ワークショップが用いられていますよね。ぼくもこれまで、KDDIやミサワホームなど、さまざまな企業とのワークショッププロジェクトを行ってきました。下の写真は、富士フイルムのプロダクトデザイナーを対象にしたワークショップの風景です」
基本的に“ユーザー中心”の考え方に立ち、「ユーザーが欲しがるものを作る」というのが“当たり前”の富士フィルムのデザイナーたち。すばらしいことである一方で、「ユーザーが欲しがりそうなものしか作れない」「新しいものを生み出せない」という弱点も。
「そこで、ワークショップを通じて、新たな商品を開発のアイデアを生んでもらうためには、その“当たり前”にゆさぶりをかける必要がありました。たとえば、ユーザーのいうことを無視して、ユーザーの欲しがるものと逆のことを提案する、ということです」
そこで、ワークショップの最初に見せたのは、お笑い芸人「サンドイッチマン」のコント動画。富澤たけし扮する「店員」が、伊達みきお扮する「客」の注文をことごとく的外れな提案で返すというサンドイッチマンの十八番です。
「その後、ワークショップでは、店員のボケテクニックを細かく分析してもらいました。なるほど、こうやってボケるんだ!! ということがわかったところで、“ありえないデジカメ”大喜利へ! もう、ホントいらないデジカメばっかり出てきて笑えるんですけれど、なかには斬新な価値あるアイデアもいくつかありました」
たとえば、胸元に入れておくと、バイタルデータを読みとって、心拍数があがったときだけ自動でシャッターを切り続けてくれるデジカメ。撮った写真はクラウドに送られて、自分が興奮したときの写真だけが残るという…。このアイデアは『自分で撮りたいときに撮れないデジカメ』というボケから生まれたそうです。
面白いイベント&ワークショップの共通点5つ
本日登壇した古橋さんの「Open Street Map(オープンストリートマップ)」、宮原さんの「深夜徘徊」、アフロマンスさんの「Burning Japan(バーニング・ジャパン)」のスピーチを元に、安斎さんが共通点を分析! 「参加者が思わずのめりこむイベント&ワークショップ」の条件を教えてくれました。
●自分たちのイベントにマッチした参加者を呼ぶこと
「イベントは、参加したいと思っている人が来てくれれば絶対にうまくいきます。お三方(古橋さん・宮原さん・アフロマンスさん)は、とてもシンプルでわかりやすいコンセプトをかかげながらも、『やりたい人が集まってくれればいい』というスタンスで実施されているのが非常に重要だと感じました」
●自分が心の底から楽しめる“自己目的”性
「お三方のイベントに共通するのは、単純にそれ自体が楽しいということ。『オープンストリートマップ』のように、街歩きをしながら地図を作って楽しんだ結果、災害や人助けにも役立つという構造が大切だと感じましたね。社会のために…という動機が強すぎると参加度は下がります。『誰より自分が楽しいからする』という自己目的性がポイントだと思います」
●シナリオを作り込みすぎない“余白”
「なかには、ゲストがこう話して、こう学んで終わる……と、すべてのシナリオが主催者側で完結しているイベントも。すると、予定調和的になり、参加者も受動的になります。その点、能動的にみんなで作り上げるには、ある程度の余白が必要なのでしょうね。アフロマンスさんの“2ちゃんねる的”というのは非常にいい言葉だと思いました」
●日常生活では体験できない“非日常性”
「お三方のイベントもそうですが、やっぱり良いイベント&ワークショップを考える上で『非日常性』は重要なキーワード。ただ、ワークショップで考えると、日常から乖離しすぎると、何のためにやってるのかがわからなるので、『自分に関係がある気がするけど、いままで考えたことなかった』みたいなバランスが理想ですね」
●日常の“当たり前”を突き崩す要素を入れること
「『これについてみんなで議論しましょう』といって、みんなが自分の言いたいことを言って終わるのでは発展性がない。何らかの意外な“制約”を設けて、考え方を工夫したり、背伸びしたりしてもらう方が参加者の驚きや学びにつながりやすいし、やっぱり単純に面白いですよね」
コツは、“当たり前”とされることを見つけ出し、それを一度壊すこと。「危険だけど居心地がいいカフェ」「ありえないデジカメ」などのお題はこの方法から生まれました。
実験やプロセスを楽しめば失敗はない
イベントを主催する参加者からは、「失敗するのが怖いんです」との声も。しかし、安斎さんの考え方は少しちがっていました。
「自分が全て用意して、参加者を楽しませるというスタンスで開催すると、確かに『失敗』することもあるかもしれませんね。でも、参加者と一緒にやってみようという参加型のスタンスなら、すべては実験のうち。何かが生まれるかもしれない、でも生まれないかもしれない、そのプロセスを楽しもうよ、という話ですから、そもそも『失敗』がなくなります」
さらに、参加者の学びが生まれるか、生まれないかは「一人ひとりの発言」という“ミクロなこと”の蓄積で決まっていると安斎さん。
「だから、運営側でストーリーをがっちり決めて、そこに添わせるよりも、自由度を高めて、一人ひとりの言葉に耳を傾けられるようになるといいですよね。ライブ的な生き物感を、もっと楽しめるようになると思います」
作り手も参加者のように楽しみ、一人ひとりが主役になれる“参加型”イベント。本日登壇された4名のイベント&ワークショップも、スタイルこそさまざまですが、個人を大切にする工夫が盛りだくさんでした。イベントを企画する際は、彼らのデザインテクを盗みに、一度足を運んでみては!
(文章:矢口あやは)
安斎勇樹 プロフィール
東京大学大学院 ワークショップデザイン 研究者
1985年生まれ。東京都出身。東京大学工学部卒業。現在、東京大学大学院 学際情報学府 博士課程 在籍。2014年4月より東京大学大学院情報学環 特任助教に着任予定。事業開発、組織開発などの産学連携プロジェクトに取り組みながら、ワークショップの実践と評価の方法について研究している。主な著書に『ワークショップデザイン論-創ることで学ぶ』(慶応義塾大学出版会)、『協創の場のデザイン-ワークショップで企業と地域が変わる』(芸術学舎 4月2日刊行)がある。
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