アプリで描いた花火や電飾を指でスワイプすると、街中の並木やもみの木に再現されて光り輝く――。これは、現在オンエアされているau 4G LTEのCM『DRAW XMAS』のワンシーンです。この幻想的なCM制作を手掛けたのが、広告界の第一線で活躍するRhizomatiks(ライゾマティクス)。彼らにとっての“物語”、そして“イベント”とは? 代表の齋藤精一さんのご登場です!
au 4G LTE やPerfumeの演出も手掛けるアーティスト集団
「ぼくらは、ウェブデザインをはじめ、インタラクティブデザイン、グラフィックデザイン、イベント企画、フィルム制作、内装や建築などを多岐にわたって手掛ける美術作家の集団です。au 4G LTEのCMをはじめ、Perfume(パフューム)の舞台演出、テクニカル・サポートなども行っているんですよ」
ライゾマティクスは、先端メディアを用いた演出から、美術館などでのメディア・アート作品の展示まで、さまざまなジャンルで活動の幅を広げてきました。「ライゾマに頼めば全部できる」といわれる“ワンストップ”体制になるまでに、8年の歳月を要したといいます。
この唯一ともいえるスタイルで広告界に名をとどろかせるライゾマですが、もともとは「美術だけでは食べていけない、国の援助も望めない。だったら、自分たちでマネタイズできる仕組みを作ろう」――そんな思いからスタートしたといいます。
「まず、マネタイズの仕組みとして考えたのが、“アート”と“コマーシャル”という2つの役割分担です。ぼくらにとって、“アート”は実験の場であり、“コマーシャル”は実験で得た技術やアイデアを使って収益を上げる場。たとえば、昨年冬にオンエアされたau 4G LTEのCM『FULL CONTROL』では、きゃりーぱみゅぱみゅのライブにあわせて増上寺をライトアップ。東京タワーをスマホのシェイクに合わせて点滅させるという大がかりな仕掛けを行いました。このように、“コマーシャル”では莫大な金額をかけた演出が可能です。そして、“コマーシャル”で得られた経験やヒントをもう一度“アート”に還元しているのです」
例に挙がった『FULL CONTROL』は、きっとみなさんもTVで目にされたことがあるはず。スマホで街をコントロールする楽しさに多くの人が熱狂する“イベント感”が印象的なCMでした。
イベントの企画は、ライゾマが仕事として挙げるジャンルのひとつ。齋藤さんは、イベント企画にどんな価値を見出しているのでしょう?
TVCM、デジタル、イベントという3つの軸
「ぼくらは、“コマーシャル”を考える時、TVCM、デジタル、イベントと3つの軸で考えます。TVCMは一度に膨大な人にリーチできますが、えてして印象が薄いのです。その点、イベントは強い印象を残せますが、多くの人にはリーチできません。そこで、イベントで与えられるインパクトの強さを維持したまま、TVCMにしようと考えました。イベントをTVCMに移植する際のハブとして使っているのが、デジタルです」
参加人数に限りがあるイベントを、TVCMとして見せる。そのための演出としてデジタルツールを活用し、壮大な世界観に仕上げていたんですね。
「TVCMとイベントでは、リーチも受ける印象もちがいます。ぼくが一番いやなのは、CMで感じた楽しい空気と実際のイベントの空気がちがったり、CMでは面白そうだったのに、ウェブを見るとそうでもなかったり――そういうギャップが起きること。TVCM、ウェブ、そしてイベントに至るまで、すべてで満足してもらえるようにデザインしたい。ワンストップだからこそできる、ぼくらの強みだと思っています」
実際に、増上寺をライトアップした『FULL CONTROL』は、TVCMの世界を体感できる参加型イベント「FULL CONTROL TOKYO」を実施し、1500人を熱狂の渦に巻き込みました。
“物語”作りは、広告制作でも重要な要素
「ぼくらがクリエイティブな分野で仕事をするとき、意識しているのが“ナラティブ”です。これは最近、広告の世界でよく語られる言葉で、『物語』を指しています。でも、物語と言えば“ストーリー”が一般的ですよね。実は、“ナラティブ”と“ストーリーはちがうものなんです」
ストーリーには、始まりと終わりがあり、固定された一連の筋書きがあります。その点、“ナラティブ”には始まりも終わりもありません。どこから始まってもいい、雰囲気的にはじまってもいい、拡大もできる、縮小もできる。そんな物語を指すのだと齋藤さん。
「車の広告で、『燃費がこんなにいい』と伝えるのは、ストーリーでもナラティブでもありません。『こんな思いで開発した、こんなふうに楽しんでほしい』。そんな思いを表現するときに“ナラティブ”の手法をもちいるんです」
なぜ、“ストーリー”ではなく、“ナラティブ”が重要なのか。それは、誰もがすんなりと世界に入れる、詳しい背景や設定を知らなくても楽しめてしまう、気が付いた時には世界観に夢中になってしまっている――そんな仕組みにつながるからです。
「大切なのは、“自分が参加できる”ということ。au 4G LTEのCMも、KDDI独自の“ストーリー”ではなく、スマホを扱うケータイ会社全体の“ナラティブ”になるように仕立てています。意識したのは、見る人が、みずから参加しているような感覚になれること。『自分が持っているスマホで、こんなことができるんだ!』『こんなふうに遊べるんだ!』と発見してもらえるように。きちんと始まりがあり、終わりがある固定されたストーリーではできないことなんです」
いま、ニューヨークなどでもいよいよ盛り上がり始めたという“ナラティブ”手法。今後は日本のメディア作りも“ナラティブ”を意識したものが主流になるはずだと齋藤さんはいいます。
“参加感”はイベント作りでも重要!
「さきほど、参加できることが大切だとお話しましたが、これはイベントを企画する際も同様です。とはいえ、来場者を巻き込むのがむずかしい! 『参加してくださーい』なんて呼びかけるだけでは、見向きもされませんからね。そこで、auの増上寺CMでスマホをシェイクしているように、思わず参加したくなるようなツールを準備しています」
一般のイベント作りでは、なかなかデバイスの準備まではできるケースはまれ。でも、一方通行になりがちなトークライブなどでは聴衆にちょっと手をあげてもらったり、クイズ形式にしたりして、参加感を演出できるとよいのかもしれませんね。
さらに、齋藤さんが教えてくれたイベントを成功するコツがもうひとつ。
「展示やイベントを考えるときは、とことん少人数で考えることからはじめるのがよいと思います。増上寺CMも、ぼくともう一人という二人体制で考えました。最終的に、運営は250人くらいになったんですけれどね。プロジェクトの成功の要になるのは人選です。変なしがらみに惑わされず、いらない人は外れてもらうことが大切です。同じ熱量、同じモチベーションで動いている人を集めないかぎり、いいものは絶対にできません。逆に、いいチームをつくれば、プロジェクトは絶対に成功するんです」
楽しかった印象を強く心にやきつけるのは参加型のイベントであり、成功に導くのはスタッフの質なんですね。大切なのは、企画に携わるスタッフひとりひとりが自分の役割を明確にし、意識して動くこと。楽しいイベントになるか、がっかりイベントになるかの分かれ道は、準備の段階からすでにはじまっているようです。
(文章:矢口あやは)
齋藤 精一(Seiichi Saito)プロフィール
http://rhizomatiks.com/
1975年神奈川生まれ。建築デザインをコロンビア大学建築学科 (MSAAD)で学び、2000年からNYで活動を開始。その後ArnellGroupにてクリエティブとして活動し、2003年の越後妻有トリエンナーレでアーティストに選出されたのをきっかけに帰国。その後フリーランスのクリエイティブとして活躍後、2007年にライゾマティクスを設立。建築で培ったロジカルな思考を基に、アート・コマーシャルの領域で立体・インタラクティブの作品を多数作り続けている。2009年-2013年国内外の広告賞にて多数受賞。現在、株式会社ライゾマティクス代表取締役、東京理科大学理工学部建築学科非常勤講師。
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