アートが都市の空気を変え、感性を磨いてくれる。ストリートの表現を追求する嶋本氏が目指す、都市のアートと表現のあり方/ イベントサロン with TOKYO ART CITY by NAKEDレポート

イベントサロンwithNAKED_嶋本さんkey2017年8月4日、TOKYO ART CITY by NAKED展示会場にて、NAKED IncとPeatixの共催となる「イベントサロン with TOKYO ART CITY by NAKED」を開催しました。 今回のテーマは「都市」。都市の魅力や都市で行われる人の営みについて考え、活動するトップランナー4名のゲストをお迎えしました。アートから都市デザインまで幅広いお話で盛り上がりました!

アートが都市の空気を変え、感性を磨いてくれる。ストリートの表現を追求する嶋本氏が目指す、都市のアートと表現のあり方

#BCTION / VATES主宰 嶋本 丈士 氏

ストリートの表現:アートとスケートボートの関連性

僕は元々写真家で、高校の途中からアメリカに留学し、そのままアメリカの大学に行きました。感受性が強い頃に外国にいたので、白黒写真をずっと撮っていたんです。あと、スケートボードもやり込んでいて、それが自分の2つのメインバックボーンだと思っています。

 

この写真は22歳ぐらいのときに、つぶれた倉庫で違法で人を集めてアートショーをした時のものです。違法なんですけど、バレなければ大丈夫だということで……。こういうのがすごく記憶に残っていて、今でもそういうアートイベントをやっています。

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© Joji Shimamoto Photography / www.jojishimamoto.com

なんでスケートボードがすごく好きなのかというと、都市で行われるクリエイティビティ溢れるスポーツと思っているから。あと想像したことを具体化していくのがスケーターだと思っているからです。

 

スケーターは、滑る時に「まずここからあそこに滑って、そのあとここから降りる」みたいなことを想像するんです。そしてその想像を、どんどん具体化させ現実化させていく。想像を現実にもっていくということは、クリエイティブなことをするのにとても大事なことだと思っていて。そういう点もスケートボードのすごく好きなところで、ずっと追い続けているし、写真家としてもスケボーを撮っています。

 

そしてスケートボードは世界中で楽しまれているのも魅力です。世界大会などにも行っていて、今までスケボーのおかげでチェコ、ブラジル、パリ、スペインなどに行けました。

やっぱスケートボードはストリートカルチャーで、アートカルチャー、グラフィティーカルチャーと密接なところにいるので、そういうところにも影響を受けたのかなと思います。これはチェコの写真です。街に生まれたスケートボードっていうところで、街とスケートボードの写真が表裏一体になるかなと思っています。

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© Joji Shimamoto Photography / www.jojishimamoto.com

取り壊し予定のビルをアートで埋める:#BCTION

これが3年前のちょうど今頃開催した#BCTIONというアートイベントです。麹町にあった9階建ての取り壊し予定のビルに、アーティストが80組ぐらい集まって、ビル内を全部アートで埋めたというプロジェクトです。東京オリンピックに向かっていく中で、取り壊されるビルもどんどん増えていくし、ただ壊すだけじゃなくてこういうイベントをやることによって、その建物の記憶や価値もアップデートされると思って。

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© Joji Shimamoto Photography / www.jojishimamoto.com

立ち退きが始まると、だいたいテナントが1つずつ、1フロアずつ無くなっていくから、そのビルはなんだったっけ?と記憶もあやふやになると思うんですが、取壊す前にアートでバッと埋めることで新しく情報がアップデートされて、そこのビルの記憶も最後にすごく強烈に人々に残るんじゃないかと思っています。

 

1階では、フリーウォールを一般開放して子どもたちが自由に絵を描けるようにしました。2週間の開催でものすごい熱量が集まり、壁が見事に埋まったのは感動的でした。普段禁止されていることってやっぱりみんなやりたがるのかなと思います。家だと壁に絵を描いたら怒られるじゃないですか、でもここだったらそれができる。そういう部分で爆発したのかなっていう気はします。

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© Joji Shimamoto Photography / www.jojishimamoto.com

アート・音楽・スケートボードなどミックスカルチャーを融合させたイベント:VATES

これはVATESという別のイベントで、去年の9月に飯田橋でやったものです。このイベントに関しては更にミックスカルチャーとしてスケートボードや音楽をビルの裏の駐車場に設置して、総合エンターテイメントみたいなかたちで開催しました。

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© Joji Shimamoto Photography / www.jojishimamoto.com

メインはこの壁画です。日本で壁画ができる場所はあまりないですが、壁画ってすごいパワーを持っていると思うんです。人々の生活の中で無意識的に目に入ってくる。無意識的に目に入るものがすごく感動的なものだったら私たちに与えるパワーも大きいと思うんですよね。

 

他にも外壁に絵を描かせてもらいました。中にちょっとしたスケートパークをつくって、ビル内でスケートボードができるみたいな感じにしたり。

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© Joji Shimamoto Photography / www.jojishimamoto.com

アーティストもすごく熱量があって、予算もほぼなかったんですけど、みんな自分が表現したいものに対して妥協がない。クライアントワークではなく「自分が好きなものを描いていいよ」と設定していたので、みんな本気になって描いてくれたと思います。ちなみにこの壁画は5〜6日間で仕上げました。意外ととすごい早さでできるものなんです。

 

これが、その後の11月に渋谷のマンションの一室でやらせてもらったアートプロジェクトです。これも「改装前のビルの一室をアートで埋めて、それで価値を上げて売ってみよう」というプロジェクトでした。このときはネオン管のアーティストにも来てもらって、ネオン管と植物を混ぜてちょっと近未来的な雰囲気を作りました。後はトリックアートみたいなアートも直接壁に描いてもらって展開しました。

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© Joji Shimamoto Photography / www.jojishimamoto.com

無意識的に目に入るところにアートを

ここからは、今後やりたいビジョンとして画像を探してきたものなので、写真撮影はご遠慮いただきたいのですが……。今後、無意識的に入るところにアートを展開できたら、すごくおもしろいだろうなと思っています。壁画とか。壁画が街中にあるとおもしろいことになるだろうと思っていまして。

 

今お見せしてる2つの写真は街のビフォー・アフターの例です。左の写真だと普通に広告が2つあるだけです。でも、それで終わらせるよりも、右のように一気にボカンと絵を描いた方が、街の活気にもつながると思うし、そういうものがあるところで生活するっていうのは、建物の価値が上がるんじゃないかなと思います。もちろん描く絵にもよりますが。

アートは感性を磨いてくれる

あとは先ほど言ったように、アートが無意識的に入ってくることで感性が磨かれるのではと思っていまして……。パリとかそういうヨーロッパに住んでいる子どもたちは、幼いころからこういうものに触れている。これから世界でAI革命とか、いろんなことが起きていく中で、アーティストというのは非常に重要になってくるのではと思っています。アートの力で未来は明るくなるのかなと。こういう感じで、アートイベントを通じて大人はもちろん、子どもたちの感性も上げられたらなと思っています。こんなところです。

 

[Q&A]

グラフィティが都市の空気感を変える

[Q] 「無意識的に目に入ってくるアート」の持つ力についてお話されていましたが、仰るように、日本だとそういうグラフィティは基本的に禁止されている場合が多いですよね。その「禁止されている中でその表現をする」とき、描いている人はそこで何を表現しているとお考えですか。

[A] グラフィティライターとかですよね。もちろん許可をもらってやるのが正攻法なんですが、一度彼らと話す機会がありまして。何でこういうことをやるのと聞いたら、彼らは「街の空気を変えたい」と言ってたんです。例えば通学路の壁に、いきなりグラフィティーというか落書きを描かれるとするじゃないですか、そしたらそこの空気感が変わる。「自分たちが、街の空気感を変えているんだ」と言っていて、一理あるなと思いました。でも一応禁止されていることなので上手いことやれるといいですよね。

 

例えばヨーロッパの各国はフリーウォールという自由に描ける壁があるんです。1回フィンランドで見たのは、小学校3~4年生ぐらいの女の子3人組が、カッパ着てスプレーで絵を描いていた姿。それがすごく微笑ましいなと思って。

 

そういう壁が別に東京にあっても僕はいいんじゃないかなと思うんです。そういう中でアートも1つの生き方として認められて欲しい。アートを広めたいって気持ちもあるんですけれど、もちろんアーティストを職業として社会に定着させたいという気持ちもあります。

 

いまは結婚する時に職業として「アートやっています」って言ったら、多分みんな心配すると思うんですけど、未来では、「僕アートやっています」って言ったら「君は素晴らしい仕事をしているね」と言われるような社会になったらいいなと思っています。

 

熱量とは:人が集まりその場で新たなものが生まれること

[Q] いくつかでてきたキーワードで、熱量という言葉を使われていましたけれど、嶋本さんにとって熱量のイメージとか、熱量という言葉に対する思いみたいなものがあったらお聞きしたいなと思ったんですけど。

 

[A] 人が集まるのもすごく大事だと思うんですよね、わざわざ電車賃払って人が足を運んでくれるってことは熱量が集まってくることなのかなと思います。人がどんどん集まってきて、新しいコラボレーションとか、その場で生まれてくるものや新しいアイデアも含めて熱量なのかなと。

熱量を生む人の集まりとは

[Q] 人が集まっていても、「この街、熱量ちょっとないかも」と感じるケースもあるのかもしれないですけど、人が集まって熱量がある場所と、人は集まっているんだけど熱量の乏しい場所の違いって、どこにあると思いますか?

 

[A] 多分、それは目的意識だと思います。何も目的がなく集まっちゃうと、何の交流も生まれないと思うんです。良い例が、ニューヨークだと思っていて、ニューヨークって世界中から人がやりたいことをやるために集まっている街だと思うんです。そういう意味ではすごく熱量がある街だと思っていて、アートに関してもそうだし、道を究めた人たちがニューヨークに集まってくるというイメージがあるので、やっぱりその目的意識が大事なのかな。

 

何をしたいのかとか、何をするのか。目的がなく集まるとただの集まりになっちゃうので、熱量が乏しいと感じてしまいますが、何か確固とした目的があれば、それは熱量が高くなるのかなと思います。

 

東京という都市にリクエスト:新しいことにフットワーク軽くチャレンジさせてほしい

[Q] あえて比較するとしたら、ニューヨークにあって、いま東京に足りないものって何だと思いますか?

 

[A] 面白み……とでもいうものですかね。例えば「東京でこういうことをしたい」と思っても、結構ハードルが高い。今まで前例がないからダメだとか、保守的な人が多いというイメージがあります。でもニューヨークは多分、「あっ、それおもしろいね。やろうよ」みたいな感じで進むような気がしていて。

 

ニューヨーク以外でも、例えばベトナムなどは国民の平均年齢がすごく低くて確か30代ぐらいです。なので「こういう面白いことやろうよ」っていったら「それいいね」ってすぐに動いてくれる。新しいことに対して、どんどんやっていくみたいな。日本に関しては、ちょっと保守的な人が多い気がするので、例えば、「壁画描きたい」と言ってもいろんな許可が必要だった、すぐやれないというのがあるような気がします。


アートが個人の感性に働きかけ、街の空気を変える。ストリートの表現がもっと活発になった街の未来をみてみたいと思いました。

 

▶︎ 嶋本さんが発信している動画シリーズ「笑ってジョージ」で、今回のイベントとTOKYO ART CITY by NAKED 来場の様子が取り上げられています。

笑ってジョージ│出張編 TOKYO ART CITY

 

嶋本さんの作品・これからの活動予定はこちらから!

▶︎ Joji Shimamoto Photography

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