2018年5月22日、Peatix Japan内EBISU PARKにて、「イベントサロン vol.14」を開催しました。
今回のテーマは「世界観のつくりかた」。圧倒的な世界観で多くの人を惹きつけるイベントの作り手に、その発想や表現についてお話を聞きました。
「拡張、文脈、共有」のキーワードで、映画鑑賞を映画体験へ。夜空と交差する森の映画祭の世界観をつくるもの
夜空と交差する森の映画祭 サトウダイスケさん
森の映画祭とは
森の映画祭は、オールナイトで楽しむ野外映画フェス、音楽フェスの映画版です。映画以外にも、映画のトークイベントや、映画音楽の生演奏、物販や飲食の協賛ブースもあり、キャンプをしながら映画を観られるフェスらしい感じになっています。
一つめの特徴は「毎年変わる世界観」。毎年世界観を設定し直し、装飾美術もそれに合わせて毎回イチから作っています。次の特徴は、短編映画が圧倒的に多いこと。長編映画が5%ぐらい、残りの95%が短編映画といった具合です。
自主制作映画制作者の交流の場と、自主映画を観てもらう場をつくる
なぜかというと、自主制作映画の露出の場を作りたいからです。自主制作の短編映画は、映画を作っている人の名刺代わり。映画制作に関わる人たちが交流する場になっています。去年は監督やスタッフ、キャストがフェス中に集まる交流会をやりました。
もう一つは、自主映画・短編映画を観てもらう機会を作るためです。このイベント参加者の大半は、自主映画や短編映画を観たことがない方なので、知ってもらうということをミッションにしています。
『ソラニン』、『スタンドバイミー』、『ビッグフィッシュ』などメジャーな作品をフックにしながら、他は短編映画で、今まで140本以上を上映してきました。今年のスピンオフを入れると160本ちかくになります。ステージもいろいろあって楽しめるイベントです。
こだわりの会場・装飾美術
今までの森の映画祭は、埼玉や山梨、去年は佐久島という島で開催しました。こんな感じで、イベント自体が旅をしているんです。今年はツインリンクもてぎという、栃木県のサーキットでやります。
毎年ビジュアルの方向性も変わります。去年まではかわいい感じでしたが、今年はパキッとした感じのビジュアルですね。会場に関しても、橋の先でやったり色々な試みをしています。これは三島スカイウォークという静岡にある施設ですが、400メートル橋を渡った先で映画を観るという内容で準備をしています。
自主映画をもっと観てもらいたい
なぜ森の映画祭をはじめたかというと、僕自身が自主映画のつくり手だからです。映画をつくって、いろんな映画祭にだしたり、YouTubeに載せたりするのですが、観る人はもともと自主映画が好きな人なごく一部。映画祭も関係者が多く、なんだか一部の集合の中で循環しているように思っていたんです。
どうしたら一般の人に来てもらえるかと考えたときに、思いついたのが、野外音楽フェスと、ライブの前座という仕組みの融合。音楽フェスはメインステージにメジャーなアーティストが出る一方で、サブステージでインディーズのハウスとか出てるじゃないですか。ライブの前座も、メインのアーティストの前に、まだ売れてないアーティストが出てきたりしますよね。映画でも同じことができないかなと思いました。
なので、イベントに興味を持つきっかけとしては、「メジャーな映画が観られる」とか「おしゃれ」とかそういうことでいいと思っていて、でも最終的にはインディーズの映画を知ってもらえる機会をつくりたいという思いでやっています。
森の映画祭をつくるブランドコンセプトと3つのキーワード
「映画鑑賞から映画体験へ」というのを、我々のブランドコンセプトにしています。さらにこれを3つに分解し、「拡張、文脈、共有」この3つのキーワードで場を作っています。
拡張:場所の拡張性、映画に何かを加える拡張性
まずは「拡張」。拡張にも2つあるのですが、一つ目は「映画をどこで観るか、どう観るか」という場所の拡張性。映画を観る手段が、映画館からDVD、ビデオオンデマンドなど多様化している中で、僕たちは旅する映画フェスとして、橋やサーキット、島など、観る場所を工夫しています。
スクリーンの外の部分への拡張性も同時に考えます。『ビッグフィッシュ』という映画を上映したとき、映画の中に靴がぶら下がっているシーンがあるんですが、それをステージ装飾にも取り入れたり、そういうふうに映画の世界観を外に引っ張り出したりもしています。
二つ目は、「映画に何かを加える」という意味での拡張性です。例えば無音映画に生演奏を加えたり、まだ実施していないですが映画を観ながらそこに出てくる食べ物を食べるとかそういう「拡張」をやってみたいですね。
文脈:大きな文脈と小さな文脈
次に「文脈」です。これも大きな文脈と小さな文脈というものに分けています。
まず映画祭に来るまでの大きな文脈について。毎回遠い場所でやってるんです。去年は佐久島という愛知県の島でやりました。人口約30人の島に一晩で1500人がオールナイトイベントをするという状況で、船じゃないと絶対に行けない場所です。
毎回文庫本のようなパンフレットを作っているのですが、昨年はその最初のあらすじのところに「僕が船に乗った」ストーリーを書きました。全員が同じ場所から船を使って移動するので、そこから物語のひとつのストーリーに落とし込んでしまおうと。これが大きな文脈です。
もうひとつの小さな文脈というのは、ステージごとの世界観と物語です。神社をコンセプトにしたステージであれば、ステージまでの移動の間に鳥居があったり境内が見えたりしながら、徐々にその世界に入り込んで行くというのを表現しています。徐々に盛り上げていくアプローチの文脈づくりを大切にしていますね。
共有:誰と時間を共にするのか・誰に話を伝えるか
最後が「共有」。SNSでのシェアではなく、場の共有という意味です。誰と観るか。友達と、恋人と家族と……いろいろあると思いますが、誰と来るかというのを、もう一度考え直したい。そして、誰かに伝えたいという気持ちになってほしい。
例えばパンフレットもそういう気持ちで作っています。世の中いろんなイベントがあって、もらったチラシは捨てちゃうますよね。そうではなくて、捨てたくない、取っておきたい、誰かに見せて話したい、そう思ってもらえるパンフレットを目指してます。そして素敵な夜だったなと思い出してもらいたいんです。
世界観のつくりかた:毎回つくり変える映画祭の世界観
それでは、毎回の世界観とそこからのイベントの作り方の話に移ります。
最初は一つのキーワードから
まず最初に、ひとつのキーワードを決めます。そしてそこから様々な言葉、シズル感に落としこんでいくんです。今まで「ぼうけん」、「しゅわしゅわ」、「ゆめうつつ」などいろいろありましたが、今年は「交差」というキーワードでやります。
「交差」は少し曖昧なワードなのですが、このくらいの方がいいと思っています。これが例えば「海賊」のようなキーワードになると、全部パイレーツみたいになっちゃう。色々な捉え方があるものがいいと思うんです。
キーワードを軸に、そこから感じるものをみんなに挙げてもらいます。スペクトルとか、ピタゴラスイッチ、思いもよらぬ、変化、未来、轍とか。そ子からさらに、みんなにスッと受け入れてもらえるキャッチコピーを考えて、全体のグラウンドストーリーを考えていきます。
2016年森の映画祭「ゆめうつつ」のステージ制作事例
2016年の森の映画祭の例をお見せしますね。この年のキーワードは「ゆめうつつ」。そこから拡げて、「夢が生まれる場所」というのをメインステージにしました。夢のかけらが落ちていて、そこから星が生まれたというストーリーで、映像が絵を結んで出てくる設定なんです。
また、別のステージのテーマは『お風呂のすいへいせん』。女性がお風呂でうたた寝をしていて、夢か現実か分からない瞬間を描いたステージになってます。このステージには高低差があって、上の方に行くと雲があって、カモメの声が聞こえる。下におりていくとお風呂の泡の音が聞こえてくる。高低差を上手く使ったステージを作りました。
『ぼくの押し入れ』という、子どもが遊び疲れて押し入れでうたた寝したところを表現したステージや、『みしらぬ駅』という、疲れて終点まで行っちゃったサラリーマンをイメージしたステージもつくりました。それぞれにストーリーがあって、それに沿って映画を選んでいます。
会場演出・美術
ステージだけでなく、会場演出・美術にもこだわっています。これは去年の佐久島でやった『真夜中に抜け出して』という島の中のステージです。島の中からステージに行くのに数百メートルの橋を渡るんですが、青春のイメージで「女の子を追いかけて真夜中に抜け出して行く」というストーリーになっています。
パンフレットもその年のトーンに合わせています。この時は文庫本のサイズに縦書きで、青春小説をイメージして作りました。
今年は交差というキーワードで3,000人動員予定ですが、3,000人に違うパンフレットを配布することを目指しているので、楽しみにしていてください。
いろいろとこだわりを散りばめていますが、まずキーワードを決めて、そこから広げて世界観を作っていくというやり方をしています。まずはここまでにしておきます。
<Q&A>
毎回のテーマの考え方
宮田:毎回テーマが変わる、解釈の幅があるようなものをテーマにするとのことでしたが、しゅわしゅわとか、交差とか、テーマはどのように発想されてますか?
サトウ:テーマはなるべく、毎回ガラッと変えるようにしています。お客さんもスタッフも、自分も含め、どうしたら毎年楽しめるかということを意識しています。今年に関しては5年目なので、イベントのタイトルからキーワードを取ろうと思って「交差」にしました。
宮田:交差って素敵なフレーズだと思ったんですが、込めている思いなどありますか?
サトウ:「交差」という言葉を思いついたのは、22~23歳ぐらいのときの、映画祭プロジェクトが立ち上がったときです。夜空の下で映画を観るって、交差している感じがしたんです。なので「夜空と交差する森の映画祭」というイベントタイトルにしました。ドメイン取得のときに「長いから森の映画祭にしろ」と言われたこともありましたが、押し切って良かったかなと思っています。
アクセスの大変な会場に、多くの人が集まる理由
宮田:仰ったように、森の中など、毎回アクセスが大変な場所で開催されてますよね。「自主制作映画をあまり知らない人に来て欲しい」と仰っていましたが、山の中での自主制作映画メインの映画祭って、ちょっとハードルが高いのでは思うんです。それでも毎年大人気。そこはどんな理由があると解釈されていますか?
サトウ:最初の参加の動機と、参加したあとに受け取ってもらうものを切り分けて考えています。まず、クリエイティブや世界観づくりをしっかりすることで、それをフックに行ってみたいと思ってもらえるようにすること。メジャーな映画を上映することもポイントです。今年は「ソラニンやるから一緒に行こう」とか、誰かを誘える要素をしっかりつくる。ただ、当日メインでやっていることはめちゃくちゃマニアックにする。それが逆にいえば狙いなので。
宮田:最初は世界観やメジャーな作品で興味を持ってもらい、当日は映画のスクリーンを飛び出した圧倒的な世界観の中で一晩過ごし、新しい映画や新しい世界に触れることで、最初に興味を持った部分を越えて「わー、なんかすごい良かったな」と思ってもらえるイベント設計をされてるということでしょうか。
サトウ:そうですね。あと、我々が手を入れてつくったものもそうなんですけど、夜通し森の中にいると、夜が明けてくるとすごく不思議な気持ちになるんです。「夢なのか現実なのか分かんなかった」という声を聞いて「あっ、そうなのかもしれない」と。不思議な気分になるんですよね。そういう面もあると思います。
宮田:今年は10月6日に開催です。これから情報もどんどんリリースされていくと思うので、ぜひチェックしてくださいね。