「イベントの企画のヒントは、イベント外の場所に眠ってる」落語家・立川志の春さんが語るイベント企画のコツ

イベント・コミュニティ主催者のためのイベント「イベントサロン」第19回は、落語家・立川志の春さんと体験クリエイター・アフロマンスさんをお迎えし、コロナ下においても歩みを止めず、イベントをやり続ける理由についてお話を伺いました。

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落語家・立川志の春さんが真打に昇進した直後、新型コロナウイルスの感染拡大でオフラインのイベントの開催が難しい状況になってしまいました。「オンラインで落語会をやったらいいんじゃないの?」とアドバイスをうけるも、「落語はオンラインでは魅力が薄まってしまう。そんなものをやっても意味がない」と思っていた志の春さん。

ところが、Peatixのイベントに登壇するにあたり、共演者のアフロマンスさんの動画や「#楽しいが必要だ」という発信をみて心が変わったとのこと。「そもそも落語家になったのはワクワクするから。能書きたれているのはあんまりワクワクしない」という思いのもと、初めてのオンライン落語会を開催しましたが…

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最初の感想は「オンラインはやっぱりキツい」。そこから始まった試行錯誤

やはり最初はめちゃくちゃ面食らいました。カメラしかなくて、反応がダイレクトに返ってこない。一発目はキツいなと思いました。ただ、やはり一度やってみると、「これはこうしたら、もうちょっと楽しくなるな」と頭が動いていくんです。

双方向のフィードバックが欲しいと思い、オンライン落語会の直後にお客さんとチャットする時間を設けてみました。終わってすぐフィードバックをいただけるようになって、精神的にはすごく楽になりましたね。

嵐のライブから見つけた、お客さんと演者が互いにのせあっていく空気感のつくりかた

生の会だと、お客さんと演者がお互いにのせあって120パーセントのパフォーマンスが出せると思うんです。それがオンラインだと、スタッフ2人はいますがほとんどカメラに向かってやるだけ。磨いて磨いて100パーセントまではいくかもしれないけれど、なかなか120パーセントは難しい。それには、ちょっと自分を上げていくものが必要だなと。

 

その時に、東京ドームでやった嵐のライブを見たんです。お客さんから事前に録画・録音したダンス映像、拍手、声などを送ってもらって、それをライブで嵐のパフォーマンスと一緒に流していました。お客さんたちが嵐と一緒に映像で踊っている感じがあって、お客さんたちの声も一緒に東京ドームを埋めていたんですね。

 

「これやってみよう」と思って、お客さんに拍手と笑い声を送ってもらいました。それを「1秒の笑い、3秒の笑い、5秒の笑い」「1秒の拍手、3秒の拍手、5秒の拍手」に加工して、スタッフの方がボタンを押したら会場に流れるようにしたんです。

 

私が登場した瞬間、送ってもらった拍手が会場に流れるだけで全然違うんですよ。サゲ(落語のオチ)を言った後で、その拍手で終わるだけでも全然違って。

笑い声を入れる間はなかなか難しいのでちょっとズレたりもしますが、それで自分を上げていくことができて、オンラインでも120パーセントを目指していけるんじゃないのかなと思いました。やってみると本当に発見がいろいろありますね。

 

ダイアログ・イン・ザ・ダークに参加して実践してみた、「視覚を遮って楽しむ落語」

このコロナ下で、初めて「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」(※現在休館中)に参加したんです。視覚障害者の方がリーダーになって、4〜6人のグループで100分間暗闇の中をいろいろ探検するイベントなんですが、もうすごくおもしろくて。

 

視覚を閉ざされた時に、聴覚や嗅覚が目覚めてくる感覚っておもしろい。これは落語に合うんじゃないかと思ったんです。おもしろいと思ったものはだいたいパクるたちなので、これを落語でやってみたんです。

 

完全に真っ暗にするのは安全上問題があるので、薄暗い状態でアイマスクでお客さんの視覚を遮って。その中で私が落語をやったんです。どんな噺(はなし)が合うかいろいろ考えて、また嗅覚や聴覚を刺激する仕掛けを準備して会をやりました。

 

実際、落語を演じてみると気づくことがありました。ふだんは顔を右、左に向けて登場人物を演じ分けながら、人物間の距離感を目線などで表したりするんです。でも暗闇の中ではそれができない。

 

そうすると、声一本で距離感を出さなきゃいけない。落語の演じ方も、こう顔を右、左に振るのではなくて、こういう前後に動く人物の演じ分け方になるんです。マイクとの距離で、上下(かみしも)が前後になる。

 

お客さんには見えていないので、マイクぎりぎりまで近づいて「おい」みたいに囁くのから、ちょっと遠くで「おぉ~~い」と言うのまで、いろいろやりました。距離感の出し方はマイクとの距離で変わるんだなって。

 

普段、見えている状態での落語では、そこまでやらないんですよね。でも、普段の落語でもある程度これを活かしていけば、もっと聴覚も刺激する落語ができるんじゃないかなと思いました。暗闇の中で1回やってみると、「次はこういう方法でもっと他の感覚を刺激していこう」という気になっていきました。

 

今はマスクをしているので、嗅覚を完全に刺激することはできません。旅館のシーンで、畳のい草の匂いを振りまいて旅館にいるのを感じてもらいたかったんですが、残念ながらみんなマスクをしていたので、そんなに匂いを強く届けられなかったですね。お線香の匂いくらい強いと分かるようですが。1回やってすごくおもしろかったです。

スタッフもお客さんも「落語会ではありえないこと」を楽しむ

そういう仕掛けをおもしろがって小さめの会場でも参加してくれるお客さんがいますが、それは生の醍醐味だなと思って。

 

お客さんにとっては、その会は真っ暗で、何も見えていない状態なんですよね。でも私はお客さんの他の感覚を刺激するために、薄暗がりでいろいろやっているんですよ。

 

他のスタッフも、私が落語をやっている間に、普段ではありえないことをやっています。例えば、周りにろうそくを並べたり、風を送ったり。いろいろやっている状態をカメラに撮っておいて、種明かしみたいなこともしました。『カメラを止めるな!』って映画があったじゃないですか。あんな感じで、種明かしバージョンの映像を後で見せて楽しんでもらったんです。「こんな感じでやってたんでっせ」ていうね。

 

落語以外から発見する、新しい落語のかたち

海外に、落語と似ている「スタンドアップコメディ」っていう芸があるんです。コメディアンたちは通常立って、マイク1本でやるんですが、彼らはやはり「マイクとの距離感の魔術師」だとあらためて発見しました。

 

私はトレバー・ノアっていうコメディアンがすごく好きなのですが、彼は話術もすごい。これまで私は話術や話芸の部分に注目していましたが、彼は自在にマイクとの距離を操っていることに気づいて。それで話の中に距離感と臨場感を出していたんだと気づいたんです。

 

アフロマンス:僕は、手塚治虫さんの「漫画から漫画を学ぶな」みたいな言葉が好きなんです。要は、漫画を見て漫画を描こうとすると、言ってみれば、他のものの劣化版コピーになってしまう。

 

だから漫画以外のことをいっぱいやれと。演劇を観てもいいし、おいしいものを食べたり、旅行するでもいい。それを漫画に落としたらオリジナルになると。

 

まさに今、落語の中で落語を探していないじゃないですか。それがおもしろいものが生まれるきっかけなんだろうなと思って。

 

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▶︎イベントサロンvol.19 アフロマンスさんのレポートはこちら
コロナ下のこんな時だからこそ「#楽しいが必要だ」。大人気イベント「泡パ®️」を産み出したときの経験から、常にチャレンジし続けることを選ぶ体験クリエイター・アフロマンスさんの考え方

 

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この記事は、2021/09/30開催のイベントサロンvol.19「それでもなぜ、イベントをやり続けるのか−コロナ下でも挑戦を続ける原動力とは−」のイベントレポートです

 

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