「食用に適さないお米」の大きな可能性ーお米からプラスチック製品を作るバイオマスレジンの挑戦 |ゲスト:神谷 雄仁さん(バイオマスレジンホールディングス) Think and Talk with Peatix #3 レポート

Peatix は、世の中の課題や、それに向き合うポジティブなアクションについて紹介し、視聴者の皆さんと考え、話すイベントシリーズ “Think and Talk with Peatix”を運営しています。

3回目のテーマは「技術革新とサステナビリティ」です。20207月からレジ袋が有料化され、紙製や竹製のストローなども目にするようになり、プラスチック製品が環境に与える負荷について多くの人が知るようになりました。しかしその一方で、私たちの生活からプラスチック製品を全部排除するのはなかなか難しいのではないでしょうか。

そんな中、日本の代表的な作物である「お米」からプラスチック製品を作っている会社があります。

バイオマスレジンホールディングス

 

今回は、バイオマスレジンホールディングスの神谷 雄仁さんをゲストにお迎えし、お米から作るバイオマスプラスチック「ライスレジン」とは何か、なぜお米からプラスチック製品を作るのか、ライスレジンが解決する様々な社会課題についてお話を伺いました。

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Part1:バイオマスレジンホールディングス神谷さんからのおはなし

ライスレジンとはーお米から作るプラスチック製品

ライスレジンとは、非食用米から作るバイオマスプラスチックの一つです。

バイオマスとは、「循環可能な植物資源」という意味で、バイオマスプラスチックはトウモロコシやサトウキビなど植物由来の原料を利用して作られています。

バイオマスホールディングスは、古米や破砕米(はさいまい:焼酎など米製品を作るために砕いた米)、屑米と石油系プラスチックを掛け合わせて、お米から作るバイオマスプラスチック「ライスレジン」の開発を行っています。

 

ライスレジンで作られる様々な製品

ライスレジンは、ゴミ袋からプラスチック製品、文具やおもちゃまで幅広い製品の材料として利用されています。2020年にレジ袋が有料化されてから、全国の郵便局のレジ袋にも採用されています。

 

ライスレジンのメリット(1)二酸化炭素(CO2)の削減

焼却可能なプラスチック製品を焼却処分するときに、CO2が排出されます。ライスレジン製品も焼却時にCO2を排出しますが、原料となる米を生産する時にCO2を吸収します。このように、製品の生産と処分のライフサイクル全体を見たときに、CO2の吸収と排出が相殺されることを「カーボンニュートラル」と言います。

仮に、原材料のうちお米が25%を占めるライスレジン製品を作った場合、25%のCO2が相殺されることになります。

 

ライスレジンのメリット(2)休耕田・耕作放棄地の活用

ライスレジンは元々、流通の際に発生する廃棄米を活用して生産を行っていましたが、最近では農業の課題解決という観点から、耕作放棄地等に原料のお米を作付する取り組みも始めました。

日本人の食文化の変化により、食用米の需要は減り続けています。それにより、稲作をやめる土地も広がり、休耕田や耕作放棄地も増加しています。そのような土地でライスレジン生産のための原料米の栽培を行うことで、休耕田や耕作放棄地を活用し、産業を創出することが可能です。

事例の一つとして、福島県の浪江町で原料米の生産を始めています。福島県では震災前の農地が10%も戻っていない状況です。そこで新しい目的での稲作を始め、お米を作り続ける取り組みを行なっています。

 

生分解性プラスチックの開発

「お米のプラスチック」というと生分解性*なのかと思われることもありますが、現在流通しているライスレジンは複合材料と言って、生分解性のない素材です。
*「生分解性」とは、温度や湿度、微生物などが一定の条件下で分解される性質のこと

バイオマスホールディングスは、生分解性プラスチックの研究開発を京都大学と進めており、「ネオリザ」として、2022年にアジア市場、2025年に日本市場での販売をスタートする予定です。

 

生分解性プラスチックとは?

生分解性プラスチックとは、温度や水分、微生物などが一定の条件下になったときに分解されるプラスチックです。消えて無くなるわけではないので、分解されたあとの土壌の安全性なども問題ないと評価されることが必要です。焼却処分をする必要がないので、処分時にCO2が排出されないことがメリットです。

分解されるには特定の条件が必要なので、「ポイ捨てしてもそのまま自然と分解される」わけではありません。また、分解されるまでには時間が必要です。

それでも、完全分解されるプラスチックとして注目が集まっています。

 

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Part2:視聴者の皆さんと一緒にディスカッション

ライスレジンはどのような製品に向いている?

ライスレジンはプラスチック製品の材料として焼却することを優先するジャンルにカテゴリ分けをされています。ですので、自治体のゴミ袋などに焼却するプラスチック製品に多く採用されています。焼却しない製品にも利用可能です。その他一般の消費材にも、各社の安全基準をクリアした上で利用されています。

性質はほぼ石油系プラスチックと同じなのですが、原料がお米ということもあり、完全に透明にならないなどの特性があるため向き不向きがあります。また、医薬品や半導体など精密な製品ではなかなか利用が進みません。ただ、普段の生活で目にするようなプラスチック製品についてはどんどん置き換えが進んでいる状況です。

 

生産・焼却時の安全は?リサイクルできる?

食品の生産と同じ要領で稲作を行うので、生産時に有害物質が発生することはありません。燃やす時も同様、有害物質の発生はありません。

リサイクルもできますが、石油系プラスチックと混ぜて処理することはできません。それぞれを分類してリサイクルしていく仕組みづくりが必要です。

日本のリサイクルの仕組みは世界でも類を見ないほど整っています。現在何度も資源を再利用することがうまくいっているので、生分解性プラスチックの導入も、必要性はもちろんあるものの、外国よりは緊急性が少し低い状況です。リサイクルの仕組みの構築が困難だったりして、分解可能な素材の導入が急務である国もあり、そのような理由で、バイオマスレジンの生分解性プラスチックの展開もまずはアジア・アフリカ市場からの展開を予定しているとのことです。

 

なぜ耕作放棄地の解消が重要なのか

農業には様々な問題があります。生産者の高齢化、十分な所得が得られないことによる農家のなり手の減少、作りたくても作れない生産調整など、様々な問題が絡み合っており、耕作放棄地は増え続けています。そして2021年現在、耕作放棄地は東京都まるまる2個分ほどの広さになっています。

水田を守るために、政府も新市場開拓用米制度という仕組みを作って、飼料など食用以外の用途の稲作を推奨していますが、なかなか市場が縮小している中で、うまく進んでいないのが現状です。

そこで、バイオマスホールディングスはライスレジンの原料米としての稲作をスタートし、非食用米の生産を開始しています。バイオマスホールディングスが作る原料米は、食用としてはおいしくないだけで、同じ面積で効率よく収穫できる「多収穫米」です。粒が大きく、生産性が高いという特徴があります。

水田を守り続けなくてはいけない理由は、食料を安定的に確保できる状態を保っておきたいからです。日本の食料自給率は下がり続けていますが、世界的なサプライチェーンに問題が起きたり、昨今の新型コロナウイルスの発生など世界的な危機が起きたときに、いつまでも安定的に日本が食料を輸入できる保証はどこにもありません。有事の際に食料を輸入に頼れなくなった時、自国で生産できる余地を残しておくことは非常に重要です。

しかし、荒地になってしまった土地を稲作地に戻すには数年の時間が必要です。食糧の輸入調達ができなくなった際にすぐに自国の生産を開始することができません。なので、水田を維持し続けることが必要なのです。

工業用稲作を継続していれば、有事の際にその耕作地を食用稲作に転用することができます。また、バイオマスレジンホールディングスが作っている原料米も、美味しさという点で少々難点があるだけで、安全性などの観点からは十分に食用にできるものです。

治水、灌水という観点でも稲作地があることのメリットを指摘する識者もいます。田植えや収穫もコミュニティの機能維持に貢献しているという点があり、地域コミュニティや日本の食生活が健全な状況に保たれるために、水田はとても大きな役割を果たしています。

 

消費者である私たちにできること

小さい行動の積み重ねが未来をつくります。「こんな小さなことで何か変わるのかな?」と思うようなことでも、普段の生活の中で未来のための正しい選択をすることが最終的に大きな変化を作っていきます。そして、正しい選択をするために、正しい知識を得ようとすることもとても大切です。

 

プラスチックは私たちの生活の中でとても便利な素材で、ただ悪者にすれば良いのではないと神谷さんは考えています。そして、バイオマスレジンには環境問題の解決だけではなく、雇用創出、地域コミュニティの維持、食料問題への対策など多くの可能性があります。技術の力で、これからの時代にふさわしいプラスチックのあり方を作っていくことで、便利な生活を犠牲にせず、サステイナブルな未来を作っていく。そんな挑戦をしている神谷さんとお話しさせていただきました。

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