みんながゆるく楽しめる「ふだん使いの音楽」。伊丹オトラクの中脇さんが語る、日常を楽しむイベント作りのコツ

2017年6月1日、KANDAI Me RISEにて、関西大学とPeatix共催で「イベントサロン大阪vol.2」を開催しました。

今回のテーマは「巻き込み」。自分のプロジェクトにどう人・物・街を巻き込むかという内容をテーマに、3名のゲストをお迎えしました。

みんながゆるく楽しめる「ふだん使いの音楽」。伊丹オトラクの中脇さんが語る、日常を楽しむイベント作りのコツ

伊丹オトラク 中脇 健児氏

兵庫県伊丹市を中心に「場とコトLAB」という屋号で活動をしています。「その場にいる人とその場だからできることを考える」が、大事なモットーです。「アートと街の間にいる」、「遊び心」をキーワードに、コミュニティープログラム、地場産業支援、教育、ワークショップなど、色んな人がワイワイやる場づくりをしています。

365日のうちの200日くらいのために

オトラクは「ふだんのまちなかを音楽のある風景に」というコンセプトで企画しているイベントです。伊丹市はどんな街かというと、ご存知の通り、空港の街のイメージだったり、大阪、神戸のベッドタウンでもありますが、実は清酒発祥の地で、町人文化、自治意識の高い街です。

芸大の芸術計画学科を卒業してからは、伊丹市文化振興財団という自治体の文化施設管理をする団体職員をやっていました。自治体の職員ということで、ホールでイベントをやるのが仕事だったんだけど、「ホールというハコから出て行かへんと、市民理解は得られへんな」という予感がザワザワとしていました。

それで街に出ようと思い、戦略を考えようと音楽を巡るポジショニングマップを作ってみたら、強敵ばかりの中にちょっと軸をずらすといい場所があったんです。ライブをライフに解釈して、街の賑わいもデザインし、「365日のうちの1日のためではなく、365日のうちの200日くらいのために」何かやろうというのがこの企画でした。

身の回りの音楽イベントを集めて作ったオトラクマップ

ということで、晴れの場というよりは、普段の生活の中でどう音楽をやるかということで立ち上げたんですけども、予算もマンパワーもなんにもない。そんな中で街中を見ると、ライブハウスはあまりなかったんですが、カフェBARなどで音楽イベントがあったんです。

じゃあ改めて自分が企画するよりも、すでにあるイベントをマップにしてまとめて配るだけでも、十分効果があるのではと思ったんです。「なんか伊丹、音楽活発やん」みたいなイメージになるかなと思って。それでその中の一箇所にだけ、「ちょっと一回、伊丹オトラクやらせてください」とお願いするとこから始めました。

 

それで、どんどん、チラシを劇場のコンサートとかに挟んで宣伝する。そうするとお店の人にも、「あぁ、そんなんやってくれるの?、助かるわ。」と言ってもらえて、どんどん他の店も紹介してもらって言われるがままに会っていたら、半年のうちに参加店が倍になりまして。

そうするとショッピングモールや駅ビルさんも入ってきてくれて。駅ビルの通行の場所を面白おかしく活用しようとエスカレーターの斜形を使ってパフォーマンスしてもらったりしました。トランペット、チューバ、トロンボーンの後ろに買い物のおばちゃんがいる、こういう状況が楽しいかなと。

イベントサロン大阪_中脇さん4

お店をとび出て、街中へ。オトラク広場

こんな感じでやってたら場が面白くなって。今度はお店じゃなくて、街中に出てみようと思ってやったのがオトラク広場です。ここでミュージシャンのブッキングというハードルができたので、音楽好きだった知り合いや、ドラムをやってたミュージシャンにお願いして、3人でとりあえず始めました。

街路樹の木陰の下で、風が流れる中で音楽を楽しむという感じで、風景を上手に遊んでやるんです。石垣を客席に見立ててやっちゃうとか。そうすると、音楽があることで街の風景の使い方がみんな変わってきた。面白いなと思いましたね。

流しの演奏を支えるサポーターシステム

すると伊丹の街中が平行して盛り上がっていって、いま全国でも盛り上がっているバルイベントのキーマンに、「バルイベントを企画するからなんかやってくれへんか?」と誘ってもらったんです。何をしようか考えたところ「流し」がいいんじゃないかなと思いつきまして。突然アーティストがやってくるというスタイルです。

イベントサロン大阪2_中脇さん5

でも実際ミュージシャンも流しをやったことがないし、飛び込むのもドキドキするということで、知り合いにマネージャー役として同行してもらったんです。するとマネージャーとミュージシャンが一緒に動くというのが良くて、それでサポーター体制を確立しようと思いました。

サポーターの方にいきなり当日にお願いだけするとか、彼らを手足みたいに使うみたいなことをしちゃうと、なかなか世知辛い感じになるので、ちゃんと事前にチームビルディングやワークショップをやります。

みんなでゆるく楽しむ、伊丹オトラクな一日

当日開始直前は、ミュージシャンが100人くらい、サポーターが50人くらいギュウギュウになって「今からみんなで、伊丹を音楽でやるぞ!」って言ってスタートします。ミュージシャンとマネージャーでチームを組んで出かけていきます。マネージャーは「次はあの店行きましょう」とかリードしてくれるんですが、これは下働きじゃなくて、アウェイな時にミュージシャンの心を励ます「心のサポート」なんです。チビッ子でもサポート役をやってくれます。

流しっぽい感じなんで街でいろんな場所でやってもらいます。途中の店で一杯ご馳走してもらってるうちに演奏する気ゼロになっちゃうミュージシャンもいます(笑)

イベントサロン大阪_中脇さん3

これはたぶんゲリラなんですよね。まあ、お店の人にはちゃんとアポ取ってますよ。路上は半分グレーかもしれません。ちなみに、この向かいには交番あるんだけれど怒られたことはございません。その代わりちゃんと「通行の邪魔しちゃダメだよ」とか「空気読むんだよ」と最初にみんなで確認してやっています。まあ、こんな感じで、普段使いな感じで色々やっていくと。

最後はみんなで打ち上げです。打ち上げの賄いもサポーターが一生懸命作りまくるんです。ここも楽しくしたいんで、作ってるところにミュージシャンが来て、「ありがとうございますー!」って言いながら演奏する。で、150人で大乾杯して終わるという感じですね。

 

振り返ると、色んな取り組みの中で、色々な巻き込むタイミングを見つけていったという感じですね。最初はお店のネットワーク強化。その次にミュージシャンのブッキングを強力してもらうコアな人たちを見つけていって、少しずつ「オトラク」がプロジェクト名になっていきました。そしてミュージシャンとサポーターの関係をフラットにしていって、市民サポーターの方とミュージシャン、お店と我々もフラットな関係を築いていきました。今は、サポーターのリーダーの方々がミュージシャンをブッキングしたり、新しい取り組みをやっています。これで12年目くらいです。

最初は僕が2人の仲間を誘って始めて、ちょっとずつこんな感じで広がって、サポーターが広まって……。独立や転勤などでメンバーも入れ替わるけれど、次の人が入ってきてくれて、と常に変化しながらやっています。

 

[Q&A]

Q) サポーターさんが参加されるのは、いったいどういうモチベーションなんでしょう。

A) いろいろあるとは思いますが、ミュージシャンたちがドキドキしてる現場で、私がこの人のお世話しなければいけないんだとか、支えてあげなきゃという気持ちですかね。共に乗り越えていくために、一緒に居る意味が必然なんです。仲良くもなるし。ましてやミュージシャンと一日中この距離感でいるなんてないので、そこも醍醐味かなと思います。

いろいろなイベントごとを手伝ってきましたが、どうもボランティアは手足のように使われることが多くそれが嫌だなとずっと思っていて。ボランティアしてくれる方は、お金以外の何かがモチベーションな訳なので、自分で考えたやりがいをどれだけ作るかが大切。そこは大切に考えています。

 

Q)当日の動きを細かく決めるのではなく、それぞれの裁量でやっていくというのが面白いと思いました。その中でどのようにルールや大切にしたいコンセプトを共有するんですか?

A)本番前にサポーターが一回集まるんですけど、その時はリッチな時間を作ると勝手に決めていて、ミュージシャンを呼んでミニ演奏して頂くんです。そこで疑似的にチップのもらい方やバルの巡り方を伝えます。マニュアルはほとんどないです。もう、ペラペラ。みなさん怒られないようにだけ気を付けてねってしか言ってないです。マニュアルでやっちゃうと窮屈になるでしょ。それは全然、面白くない。

そもそも伊丹オトラクは街のグレーゾーンをどれだけ拡張していくかという実験をしていると思うんです。ここまでやっていいラインって社会情勢によって、縮んだり広がったりすると思うんですよ。もう8年くらい「オトラクな一日」やってるんですけど、お店の人も、お客さんもみんな慣れてきたんで、かなりやりやすくなってきた印象ですね。これが文化なんじゃないのかなって気がします。

 

Q) ミュージシャンの選定方法や、ギャラの設定はどのようにしているんですか?

A) ミュージシャンは公募は一切していないです。というか、サポーターも公募してないです。京都方式って言って、誰かの知り合いっていうか、そういうのをすごい大事にしています。こんなマニュアルのないプロジェクトなので、連れの連れっていう感じの感覚が一番大事かなと実は思ってます。

とはいえ、なんとかたどり着く人もいるんですね。そしたらちゃんと音源も聴きますが、一番求めてるのは、鼻が利くことです。空気読まずにずっと演奏する人は、どんだけ上手くてもお断りだし、ライブハウスだから光るミュージシャンもいるんで、そういう方に出ていただいても、多分ミスマッチだと思うんです。「お互いにとって良くないからやめましょう。」みたいなのはあります。

ギャラは少ないですが払ってます。ただ、めっちゃ少ないです。なので他の部分で満足してもらえるようにしています。店の人に「飲んで行きやー」って言ってもらえるようにしたりとか、休憩場所にギャラ以上のお酒やつまみをいっぱい用意したり、みんなで焼きそば作ったり。ほんならみんな「うわー、楽しー」みたいになってくるんです。

ミュージシャンって自分の中で何枚かの「まいっかカード」を持ってると思うんですよ。「これでもういいか、今日は。」みたいな。その貴重な「まいっかカード」を伊丹オトラクに出して頂くために、ゆるーいゆるさが許されるようにやってます。

 

Q) 芦屋でバルと音楽イベントの実行委員しているのですが、資金面の苦労が多くて。特に最初の頃、知名度もない頃って本当に大変だったのですが、オトラクさんの場合はどうだったのでしょうか?その辺りの努力を教えて頂けたらと思います。

A) まず非常にラッキーだったのは、僕が文化振興財団の職員だったので、僕の人件費はかからないところですね。多少なりとも事業予算を付けに行ける。まあ、すっごい少ないですけど。

それとバルの実行委員会から委託金を貰ってまわしています。最初なかなか売り上げなかったんでヒイヒイ言ってて、周りからは、「ミュージシャン来てんだから、店舗さんから参加費もらった方がええんちゃう」とも言われましたが、そうするとこのゆるさは出ないと思って。だから絶対店からはお金を貰わんと決めて、「その代わり絶対ドリンク出して下さいね」とか言いながらじわじわやってたら、周りの商店の人も実行委員も、「もうちょっと委託金上げようか」という意見になってくれて今は安定してきてるところですね。そこもラッキーなんですよ。

なので、必要最低限かかるものは資金から出してますが、コアスタッフも、本当はお金もらわなきゃいけないぐらいのことを動いてくれています。そこはもうやりくりです。「やりがい搾取なのかな?」って悩むこともありますが、一応、楽しくやっているかなっていう感じですかね。


「ゆるくやるために、しっかり考える」、「それぞれの関わり方で楽しんでもらえるようにデザインする」、気持ちいオトラクな一日の中に、中脇さんのいろいろな考えや思いが込められているんだなと思いました。

「ふだん使いの音楽」に溢れる伊丹の街、素敵です!

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