「どうやれば実現できる?」法律や規則との関係を再構築する、パブリックアートのつくりかた。おおさかカンヴァス寺浦さんが考える、表現と都市の共存とは/ イベントサロン大阪 vol.2 「巻き込み」

2017年6月1日、KANDAI Me RISEにて、関西大学とPeatix共催で「イベントサロン大阪vol.2」を開催しました。 今回のテーマは「巻き込み」。自分のプロジェクトにどう人・物・街を巻き込むかという内容をテーマに、3名のゲストをお迎えしました。

「どうやれば実現できる?」法律や規則との関係を再構築する、パブリックアートのつくりかた。おおさかカンヴァス寺浦さんが考える、表現と都市の共存とは

大阪府文化課 主任研究員 「おおさかカンヴァス推進事業」担当 寺浦 薫氏

イベントサロン大阪2_寺浦さん

大阪府が去年度までやっておりました「おおさかカンヴァス」のお話をしたいと思います。2010年から始まったプロジェクトで、公募でアーティストの参加者を募り、審査で選ばれた作品に作品を制作するための資材等を提供し、制作・発表までを支援するというものです。

 

去年は万博公園でやりましたので、太陽の塔に挑戦ということで「おい、太陽。」というキャッチ・コピーをつけて実施しました。こちらの「たたかう芸術祭」というのは2015年のテーマです。公共空間での展示なので非常に規制が多く、戦う側面がとても多いので、それを出していこうと。ウルトラマンっぽく戦っているっていうメディアの展開も功を奏して話題になりました。

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企画・デザイン 株式会社人間

前・大阪府橋下知事の時に始まったプロジェクトで、障害があれば条例改正でも何でもして実現しようというくらい勢いがありましたが、実際のところ非常に大変なプロジェクトです。たくさんの人が見に来ますが、見たくない人もいます。法令遵守は絶対ですし、危険こともしてはいけません。どうやって安全に、アーティストの思いを叶えられるかっていうところが一番の大変なところになります。

Yotta 「イッテキマスNIPPONシリーズ“花子”」

こちらは、Yottaの「イッテキマスNIPPONシリーズ“花子”」。高さ13メートルのこけしを中之島公園に設置した作品です。これを最初警察に相談に行った時に、「後ろに高速道路が走っていて、ドライバーと花子の目が合って事故が起きるから絶対やめて欲しい」という理由で全く許可が出なかったんです。

 

それで、この花子と同じ13メートルの高さまでバルーンを上げて、後ろの高速道路を何回も車で走って、そのバルーンがいかに視線誘導しないかっていう証拠のビデオを作りました。それを持って警察に何度も通って「事故にはならない」ということを何度も何度も説得して、やっと許可が出たというものです。

 

それまでこの中之島公園は3メートル程度の高さまでの展示しか許可が出なかったんですが、今は13メートルまでできます。皆さんもこの高さまでならオブジェなどの設置ができますし、更に高い物も、説得次第ではできるかもしれないですね。

NANIWAZA 「GREEN to CLEAN」

スタートして 2年目からは水都大阪フェスと連携してやっています。その一つに、このNANIWAZAの「GREEN to CLEAN」という作品がありました。公園に隣接する護岸を使ってゴルフの打ちっぱなしをするというものです。「川にものを投げ込む」ということと、「ゴルフの打ちっぱなしをする」ということの2点、つまり公園でも川でも「やってはいけないこと」の代表例を、どうやってやるかいろいろ考えました。

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NANIWAZA「GREEN to CLEAN」

アーティストは、大阪の川が本当にきれいになってきたことをアピールしたい、そしてもっと川をきれいにしていきたいという思いを作品のコンセプトにおいており、東大阪の会社の協力によって、水を浄化する素材でできたボールを開発しました。

 

このボールを投げ込めば投げ込むほど、川はきれいになる(かもしれない)という理屈をもとに、河川および公園管理者と協議を重ね、なんとか許可をいただいたものです。

加藤翼  「H.H.H.A.(ホーム、ホテルズ、秀吉、アウェイ)」

こちらは加藤翼さんのプロジェクトで、もともとは巨大な箱をその場にいる人が力を合わせて引き倒すというプロジェクトでした。これをやろうとしたのは3月12日でしたが、準備中に2011年3月11日の地震が起こってしまい……この箱を「ガッシャーン」と潰すことは、今ニュースで流れている悲惨な映像と全く同じ事をやることになるのではという状況になりました。

 

「やっていいんだろうか?」という加藤さんの非常な苦悶がありまして……。現場にたくさんいた観光客の人たちも巻き込んで、どうするべきかについて話し合いをしました。

 

その中で、「引き倒すのではなく、引き起こそう」という結論を出し、力を合わせて箱を起こすプロジェクトに変わりました。これ以降、加藤さんは引き倒しではなく「引き起こしプロジェクト」を世界各地でやられています。こういう風に現場の人たちを巻き込みながら、プロジェクトの在り方も変えていくということも起こったりします。

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加藤翼 「H.H.H.A.(ホーム、ホテルズ、秀吉、アウェイ)」

西野達 「中之島ホテル」

こちらもまた全然違う巻き込み方で実現したプロジェクトですが、これは、中之島公園内の公衆トイレにホテルを増設し、実際に泊まってもらえるようにしようという西野達さんのプロジェクトです。

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西野達 「中之島ホテル」

これも当初は絶対にできないと言われていまして、なぜかというと、法律が7つぐらい干渉していたんです。建築基準法とか、消防法とか、旅館業法とか、河川法とか、公園法……。ありとあらゆる法律に抵触していたので、「さて、どうしようか」ということで、いろんな人たちに相談をしました。

 

例えば建築基準法だと、普通に建築として建てると基礎の部分にコンクリートを入れる必要があり、予算がまったく足らなくなります。なので、この作品を通常の建築物ではなく、一時的な休憩所として申請することで協議を進め、基礎を打たず、仮設の建物として設置する方法を取りました。

 

また、アーティストはどうしてもここを通常のホテルとして運営し、泊まる人にちゃんと宿泊代を払ってもらうプロジェクトにしたいという強い意向がありました。しかし、我々がホテルを運営するとなると旅館業法に触れるので、それができません。

 

そこでまた話し合いをして、ロゴ入りのバスローブを作って、そのバスローブを買い取ることを宿泊代とみなすという方法を取りました。そのバスローブは東大阪のタオル専門の会社にご協力いただき、オリジナルのロゴ入りのものを作っていただきました。

 

また、ホテルにはコンシェルジュも置いたのですが、リーガロイヤルさんにご協力いただき、リーガロイヤルさんで研修を受けた観光大学の学生さんにコンシェルジュをつとめてもらいました。巻き込み力がないと本当に実現できなかったプロジェクトですね。

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西野達 「中之島ホテル」

Class株式会社 「ローリングスシー」

これは、2年前にやった「ローリングスシー」というプロジェクトです。大阪が回転寿司発祥の地ということで、市内をロの字で流れている川を回転寿司のレーンにみたて、巨大な寿司のオブジェを流したい、というアイデアです。

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Class株式会社 「ローリングスシー」

アーティストの当初のアイデアは、寿司のオブジェに自分たちが乗り込んで川を巡る、というものでしたが、構造等、いろいろ検証した結果、すぐに転覆して溺れてしまうということが分かりました。そこで、各方面に相談をし、今度は大阪で発泡スチロールを使ってオブジェを作っている会社にご協力をいただき、本物のそっくりの寿司のオブジェを作りあげることができました。

 

実際にどうやって寿司のオブジェを流すかを検討したのですが、前方はボートで引っばるとすると、今度は後ろの寿司が右に左にと大きくふれ、岸にぶち当たって危険なことが予想されました。

 

そこで、サップ(SUP:スタンド・アップ・パドル)という巨大なサーフボードに乗るスポーツがあるのですが、そのサップのプロである、日本シティサップ協会の会長さんに相談をして、後ろの寿司の横でSUP2台に並走してもらい、流れそうになったら横から寿司をツンツンとついて元にもどす方法で実験したところ、うまく行きましたので実現にいたった、というのがこの「ローリングスシー」のプロジェクトです。

 

前のボートには会長さんに乗っていただき、寿司のコントロールをしていただきました。会長さんの巧みなボートさばきがなければ実現できませんでした。

 

フォトジェニックなプロジェクトでしたので、本当にたくさんの人が集まりました。SNSの効果は、今のプロジェクトには大変重要な要素だなと思っています。アーティストが割り箸を配って、「こういう写真も撮れますよ」という説明もしていました。海外からもたくさんの人に見に来て頂きました。

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Class株式会社 「ローリングスシー」

道頓堀川のエリアは、大阪市さんが水門や遊歩道の整備を進められ、水面に近いところで川を楽しむことができる親水空間が展開されています。だからこそ、このような寿司のプロジェクトも効果的に実施することができたわけです。

 

また、河川空間の運用についても、単に行政が“使用許可を与える”というスタンスではなく、大阪市さんが指定管理者に活性化を委託しておられます。運営を受託している南海電鉄さんには、大変ご協力いただきました。

 

寿司を流す際に、ものすごい数の人が集まってしまい、危険な状況にもなったのですが、いかに安全に実施するか丁寧にアドバイスをいただきながら進めることができました。一時は、「阪神の優勝の時よりも人が集まっている」と言われ、本当に冷や冷やしました。たくさんの人には来てもらいたいけれど、安全第一、ということで、その両立は本当に難しいです。

 

このようなプロジェクトが実施できるということで、大阪の水辺の開発・活用は本当に進んでいます。東京の人たちも真似したいと言っているくらいです。

 

[Q&A]

みんながこのプロジェクトを応援してくれる理由とは?

[Q] たくさんの方が頭を捻って考えて実現しているプロジェクトばかりだと感じました。みなさんがこのプロジェクトを応援したり、知恵を絞ってくれるモチベーションの源泉みたいなものは何なのでしょうか?

 

[A] 皆が応援したいと思っているわけではないと思います。ただ、我々も、「アートだから許可してほしい」という言い方はしません。例えば警察の方にとっては、それがアートかどうかは関係ないことだからです。

 

街の根本となる土木構造物は本当に我々の生活の基礎なので、その安全なくしては私たちはハイヒールで街を歩くことさえできません。そういう安全を守る人やルールがあってこその社会なので、その法律に基づいてやっていい線と、いけない線はどこかをクリアにしていく。

 

その過程で、いま私たちの社会が何を良し悪しとしてるのか、自己規制でどこまで自粛しているのかのラインが見えてきます。そこをどう突いていくかということですね。そういうことをみんながやってかないと、街は変わらないと思うんです。街を「変えない」のか「変える」のか、自分たちで考え、試し、自分たち自身で決めていくことが必要なんだと思います。

 

公共空間で実施することへの考え方

[Q]「見たくない人もいる」っていうのが、すごく印象的でした。公共空間でやるにあたって、見たくないという方に対しては、どのようなお考えでやっておられますか?

 

[A] 本当に申し訳ないと思います。「太陽の塔だけを美しく見たいのに、要らないことをして」という意見は確かにその通りです。なので、「すみません。これいま期間限定で、こういう事でやらせてもらってるんです。ちょっとだけご理解いただけませんかね?」みたいな感じで、理解してもらえたらいいなと。

 

憤慨して帰っちゃう人もいますし、「まぁ、今だけだったらいいか」と思ってくれる方もいたり色々です。でも全員がイエスというプロジェクトはあり得ないので、そこは本当に申し訳ないなと思いつつ、こっちもやりたい事があるので「その接点はどこだろう?」という気持ちで企画を実施しています。

 

運営者のモチベーションはどこにあるのか

[Q] 私も企業で街づくり系のイベントをしていたんですけれども、企業でも行政でも、どうしても芸術や公共空間活用というのは後回しになってしまうと思うんです。その中で、これだけ力を入れている行政サイドのモチベーションは何なのでしょうか。

 

[A] 大阪府の公式見解をこの場で述べるのは置いておきまして、個人としての考えでお答えします。アートで都市再生をする事例がヨーロッパでたくさんあります。炭鉱や造船の町が疲弊した時に、アートで盛り返して、その都市が今一番住みたい街になってるとか。そういう取り組みを大阪でもやりたいと思ったのが、企画の始まりです。

 

もちろん、毎年すんなり予算が通るわけではなく、「これをやることで大阪がどうなるのか?やる意味はどこにあるのか?」という詰めた議論をずっと続けています。

 

でも、アーティストにはやりたいことがはっきりとある。そのアーティストを支援するのは我々文化課の仕事ですし、アーティストが活動しやすい街にしたいというモチベーションはあります。行政がプレーヤーとして加わることで、アーティストがさらにインパクトのある活動ができれば、アートと都市の可能性はもっと豊かになる。そういう思いでやっています。

 

「大阪らしさ」というものについて

[Q]数年間開催されてきた中で、大阪のアートの「大阪らしさ」や、大阪のアーティストが課題に思っていることなど、見えてきたものがもしあれば教えてください。

 

[A]「大阪らしさ」というのは、「それを言われると嫌」という人と、「まさにそれが好き」という人に分かれるんです。ただ、これまでやってきて思うのは、「ローリング・スシー」のような、一見ばかばかしいプロジェクトでも、真剣に実現してみると、思わぬ結果につながる懐の深さを持っている都市だなあ、という実感があります。

 

水都としての都市インフラ整備の蓄積と実践があったからこそ、寿司のオブジェが効果的に運用できたという点で、国内外からも高い評価を得ました。「大阪以外の川では絶対にできない」という声も多く聞きました。

 

「大阪らしさ」にこだわることなく、やってみたいことはやってみる、そして都市がそれを受け止めるというのが特徴かなと思います。

 

大阪はわりとみんながこういう試みを受け止めてくれるんです。あの寿司は船の走行にも邪魔になってましたが、観光船も避けて通ってくれるなど、舟運事業者の皆さんにも本当にご協力いただきました。そういう土壌がこの都市にはあるなあ、という実感はあります。


パブリックアートを通して街のあり方を知り、法律や規則との関係を再構築する。私たちの住む街がどうなっているのか、どうしていきたいのかを考えるきっかけになる素敵なプロジェクト。何気なく歩いている街にあるもの全てに、いろいろな考えや思いがあると気付かされました。

 

おおさかカンヴァスの過去の実施概要・過去作品はこちらから!

▶︎ おおさかカンヴァス推進事業

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