ノイズから生まれる多様性。誰もが表現でき、楽しめる場所を目指す渋谷の街づくり/ イベントサロン with TOKYO ART CITY by NAKEDレポート

2017年8月4日、TOKYO ART CITY by NAKED展示会場にて、NAKED IncとPeatixの共催となる「イベントサロン with TOKYO ART CITY by NAKED」を開催しました。

今回のテーマは「都市」。都市の魅力や都市で行われる人の営みについて考え、活動するトップランナー4名のゲストをお迎えしました。アートから都市デザインまで幅広いお話で盛り上がりました!

 

何百年もの歴史も、大きな観光スポットもないけれど、ノイズから生まれる多様性が渋谷の観光価値。誰もが表現でき、誰もが楽しめる場所を目指す渋谷の街づくり

渋谷区観光協会 金山 淳吾氏

いつもTシャツ姿ですが、一応、一般財団法人渋谷区観光協会という非常に堅い会社の代表理事として「観光」というカテゴリーで渋谷の街づくりをしています。PLAY DIVERSITY SHIBUYAというのは去年つくった標語です。

ロンドン・パリ・ニューヨークと並ぶ都市に

渋谷区長がロンドン、パリ、ニューヨークなどの街と肩を並べようと宣言していて、その中で街づくりをやっていますが、「なかなか並ばないよね」というのが正直な僕の感想です。

例えばロンドンに行くと衛兵交代やビッグベンがあったり、パリにはセーヌ川やエッフェル塔、ニューヨークには自由の女神があります。じゃあ渋谷には何があるかというとハチ公ですが……結構小ぶりなんですよね。スクランブル交差点も交差点としては大きくない。今、村松さんがアートにしているように、人の交流はすごいですが……。観光資源に何があるかというと、意外とないのがかなり悩みです。

渋谷の観光の強み:ノイズから生まれる多様性

でもその中にとにかく多様なスモールエンターテイメント、タイニーエンターテイメントがある。その多様性を楽しんだり作ったりするのを、観光の醍醐味にできないかと思ったんです。

プリクラを生んだのも、女子高生という生態系に光を当てたのも渋谷という街です。いろんな歴史だとか、いろんな人たちが集まってはノイズを起こして、また次にバトンが渡っていくのが渋谷の面白いところだと思います。

 

目標は来場者数ではなく来場者満足度

地方の観光協会では「とにかく人を集める」というのがミッションになるんですが、渋谷は実は全く人集めはしていません。なのに人がやってくるという非常に特殊な街なんです。

象徴的なのはハロウィン。ハロウィンはどの街もイベントをやって人を集めますが、渋谷は全く呼んでないのに人が死ぬほど来る。ですので、その次にもう一度来てもらうため、来場者数ではなく来場者満足度120%を目標にしています。

 

ハチ公やスクランブル交差点は非常に人気があります。ただ、観光は経済と結びつかなければいけないんですけれども、ハチ公と写真撮って、スクランブル交差点でムービー撮ると、無料で非常に楽しめてしまうのです……。

普通、観光地ってお土産がありますよね。シンガポール行くとマーライオンのチョコレートとか。渋谷はそういうものがないんです、観光に力を入れてこなかったので。観光案内所も本当にシンプルなものしかないというところに急に外国人観光客が来るようになったので、急ピッチで整備を進めています。

渋谷にストリートカルチャーをもう一度

いまテーマとしてやっているのは、ストリートカルチャーをもう一度呼び戻すということです。昔は渋谷にあまり会社はなかったのですが、2000年以降に会社が増えてサラリーマンが多くなった。土地柄IT企業が多く、私服でお洒落なサラリーマンが多いですが、それでも街の雰囲気は少し変わりました。

もともとは遊びに来る街だったから歩行者天国もたくさんあり、そこからストリートミュージシャン、ストリートパフォーマーが生まれましたが、今はあまり生まれなくなってしまった。規制が厳しくて、ストリートパフォーマンスをしていても1曲終われば警察が「じゃあ、行こうか」と連れて行っちゃうんですよね。壁もそうで、表現が落書きと言われてアートと迷惑行為の境界がすごく曖昧です。

いま渋谷109の前などで、いろんなパフォーマンスや音楽のイベント、お祭りみたいなことをでやっているのですが、月に1回は公共空間をクリエーターやアーティストなどの表現者に開放していくということを仕掛けています。

 

渋谷の新たな一面をつくる:盆踊り・ナイトエコノミー・テクノロジーで楽しめる街歩き

今年、新しく立ち上がるのは盆踊りです。これも非常にやるのが大変で、警察から許可が下りたのが3週間前だったんです。なので告知もほとんどできませんが、人は来るので楽しんでもらえるんじゃないかなと思っています。今年はオリンピックのオリンピック音頭というのができるので、ここがお披露目の場所になりますね。いつも水面下で調整するので、もしできなかったらどうしようと最後までハラハラしながらやっています。

 

それ以外にも、「夜間の経済」というのをやりたいと思っています。渋谷の夜はつまらないと言われるんですよね。なのでナイトマップをつくったり、ヒップホップアーティストのZeebraさんや、トランジットジェネラルオフィスの中村貞裕さんにナイトアンバサダーになってもらって、ナイトタイムエコノミーの振興というのをやっています。

 

あとはビーコンという、スマートフォンなどのデバイスに信号を発信できる発信器を街中に仕込んでいます。最初から意図を持っていた訳ではなく、誰もやっていなかったんでとりあえずやってみたんです。これが呼び水になって、いろんなクリエーターから「こんなことできませんか」とお話をいただけるんじゃないかなと。

実際に今、某人気アイドルグループを多数抱えている事務所や、映画会社からキャンペーンで使いたいと言われています。こういうのが生まれてくると、街を使って、歩きながら楽しんでもらえる仕組みになるのではと思っています。

渋谷の多様性を楽しむイベント

渋谷は季節性のない街です。湘南だったら夏、新潟だった秋〜冬というわかりやすいシーズンがありますが、渋谷はいつ行ったらいいのか分かりにくいので、気候も安定する秋にイベントをやることにしました。テーマは、いま推進しているダイバーシティーです。

これはビジネスカンファレンスとして立ち上げるんですけれども、SXSW(サウス バイ サウスウエスト)みたいにエンターテイメントとビジネスのハイブリッドモデルでやりたいと思っていて、ダイバーシティーを「いろんなクリエイティビティーの発露のチャンス」と定義して企画しています。いろんなクリエーターさんや、ミュージシャンともコラボレーションしていきたいなと。

 

僕はダイビングやるんですが、海の上だけ見ていると、ヨットや船がいたりという景色しか見えないのが、潜ってみるとすごく綺麗で、多様な植物に感動する。ダイバーシティーもそういうことではないかと思っています。

飛び込んでみないと価値が分からないようなことを、渋谷で、明治神宮とラフォーレ、TRUNK HOTELなどの場所を使って紹介していきます。いろんなパビリオンを作るので、是非遊びに来てもらいたいです。ビジネスカンファレンスはちょっと真面目な話になりますが、これからの社会について話し合う内容になります。

 

あとはシェアエコのサミットを一緒に開いたり、福祉の未来形をつくったり、障害者スポーツの振興をやったり……。ダイバーシティーって言葉の通り広いので、何でもありといえばそうですが、クリエーターが新しいビジネスチャンスをつかんで、結果的に障害者からLGBTの人、そして健常者が更に楽しめる場所をつくっていきたいと思います。「あの街に行くと誰でも楽しめるよ。誰がいっても嬉しい場所があるね」というような街づくりをしていきたいと考えています。

 

[Q&A]

トラディショナルな観光資源と、渋谷のダイバーシティを楽しむ観光の魅力の違いはどこにあるのか

[Q] ダイバーシティーという言葉で、渋谷を「その人一人ひとりの楽しさ」が見つかる場所にしたいんだなと感じました。冒頭に出た「タイニーエンターテイメント」にも、そういう個人や小グループにフィットする楽しみという意味を感じたのですが、それと、衛兵交代などトラディショナルな文化的観光価値にはどういう違いがあると思われますか。

 

[A] これは僕の自論ですが、日本って戦後急速に復興したじゃないですか。東京も焼け野原になり、渋谷原宿も表参道も何もなかった町を、急激に作っていった。なので、トラディショナルなものがいったん消えて、すごくざっくり捉えた意味での移民とでもいうような人で成り立った街だと思っています。

ロンドンやパリにある何百年という歴史が今の東京には残っていない。日本橋などは別ですよ。ただ、渋谷エリアではあまり残っていなかった。なので文化というより文明都市なんです。文明は進んでいくしかなく、進んで移ろっていくんです。なので文化論でいうと、ここ50〜60年ぐらいの間で若い人たちが若くつくるという営みが続いてきている。年代が上の方も、元々新しいものや、ファッション音楽をつくってきたから、若い人の生み出すものに対して一定の許容力みたいなもののを持っているんじゃないかと思います。

渋谷以外の都市とのコラボレーション

[Q] 渋谷以外の都市とのコラボレーションは検討されていますか?去年、カンボジアとプノンペンに行ったんですが、プノンペンに忠犬ハチ公があったんです。

 

[A] 広域渋谷圏という捉え方をしていまして、特に港区や新宿区とは連携していきたいと思っています。例えばハロウィンだと新宿駅のロッカーで着替えて渋谷に来るのが王道パターンらしいですね、渋谷のロッカーが飽和するから。僕はハロウィンで渋谷に来る人を新宿区にちょっとお返ししたいなと思っていて。新宿の方でも盛り上げることができれば、渋谷と新宿で平均して面白くて楽しい、安全なイベントになるのではと考えています。

あとは、ナイトカルチャーも。六本木、歌舞伎町、渋谷というのは、夜におもしろい街の3つだと思うんですが、少し様相が違うんです。六本木はちょっと大人だし、歌舞伎町の方はちょっとダークだし、渋谷はもうちょっと若くてエネルギッシュ。そんな違いを楽しみながら、グルグル回ってもらえる方がいいんじゃないかと思います。

行政的な話でいうとハチ公は秋田犬で大館市というところの生まれなのですが、そことは提携を結んでいます。全然観光には関係ないんですけれども、渋谷の小学生たちは実は秋田米で育っているんです。田植えと収穫の交換ツーリズムをしていて、そういうのはつくっていきたいなと思います。

 

渋谷のストリートカルチャーに着目する理由とは

[Q]渋谷の文化づくりへの最初のアプローチとしてストリートカルチャーの再興というのがあったと思いますが、それはストリートカルチャーがすごく力を持つということなのでしょうか。そこに着手する理由を伺いたいなと思いました。

 

[A] 渋谷のストリートカルチャーから新しいものが生まれてきたからです。前職は音楽業界で仕事をしていて、ちょうど今39歳なんですが、当時の渋谷系の音楽がすごくおしゃれに感じたんです。洋楽好きだったにも関わらず、「おしゃれだな。いいな。Jポップカッコいいな」と。後から勉強すると、当時の渋谷の音楽は3本の道から生まれたと言われています。道玄坂というラブホテル街から降りてくる道と、青山学院から降りてくる道と、宮益坂と、公園通りというファッションストリートから降りてくる道でです。

公園通りの方からは、ピチカートファイブみたいなちょっとおしゃれなフレンチポップが生まれて、道玄坂からはオリジナルラブみたいなちょっとアンダーグラウンドでダークな音楽、青学がある宮益坂からは、サザンオールスターズみたいな学生上がりからのすごく先鋭的な音楽が生まれた。それがぐるっとミックスして、みんなで切磋琢磨した結果、1980年〜2000年前半ぐらいまでが渋谷系と言われました。

 

今それがなかなか生まれないのは、ストリートからミュージシャンを追い出して、歩行者天国をなくしてしまったからだと思うんです。渋谷をサラリーマンの街にしてしまったなという感じがあって。もう一度路上を開いて、「もう一度ここでパフォーマンスしてみようよ、自己表現してみようよ」ということが大事なのではと思います。

音楽だけでなく、フリーウォールなどアートを描けるものをつくっていきたくて、壁を提供してくれる人を探しています。裏原宿にはあるんですよね。そこはすごくホットスポットになっていて、やはり表現の場があると表現する人がちゃんと集まってきてくれる。そしてそこで表現されたものに人が集まってくるから、道やストリート、公共空間を開いていくことはすごく大事なんじゃないかと思っています。


多様であることが渋谷らしさ。誰もが自分らしく楽しめる街のあり方を目指して、進化し続ける渋谷のこれからに注目です!

渋谷区観光協会のWebサイトはこちら

▶︎ 渋谷区観光協会

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