全てのできごとが学びの機会。「ファッションをサイエンスにする」ことを目指し、人気ファッションアプリIQONを運営するVASILY金山さんが語る、創業前のストーリーからこれからの展望まで

2017年12月19日、Peatix Japan内EBISU PARKにて、「ベンチャー深いい話vol.1」を開催しました。

スタートアップに関わる方々に、起業のきっかけやこれまでの歩み、事業のターニングポイントなどを赤裸々にお話いただくトークイベント。第1回目のゲストはVASILY代表の金山 裕樹氏です。

金山さんが直面した数々の出来事と、そこからの歩みについて、たっぷり語っていただきました!その中の一部をレポートします。

 

人と服との幸せなマッチング

まず少しだけIQONというサービスについて紹介したいと思います。IQONはファッションアプリのサービスです。簡単にいうと「人と服との幸せなマッチング」のサービスです。今日皆さん服着て……ますよね? 服は必ず着なきゃいけない。しかも服って家計の結構な割合を占めてるんです。500円以下の服ってなかなか見つからないですよね。

 

そうやって結構な値段をかけて服を着ているわけですが、皆さん着ている服に自信はありますか?「今日のファッションに自信あるひとー!!」って聞いてもハイって言える人はなかなかいない。

 

これってすごく不幸じゃないですか。服は絶対着なきゃいけない、結構お金もかかる、なのに自信がない。こんな悲しいことはないです。これをなんとかしたい。もっとみんなが自分に似合う服を見つけて、それに自信が持てるようになるサービスを作りたいと思いました。

我々はファッションを「サイエンス」にしたいんです。趣味やこだわりを解明し、再現可能のものにする。それがビジネスの肝だと思うんです。ファッションはまだそれができていない。まだ「センス」という抽象的な言葉で表現されている。まだサイエンスで開拓できていないところにビジネスチャンスを感じました。事業を始めて10年になりますが、まだそこは開拓されるべき場所ですね。

 

[司会] では、ここから「写真で過去を振り返る」というスタイルでお話をしてもらっていきます。

 

2001-2004年 
国内メジャーレーベル役員に、海外デビューのコツを聞く!FUJI ROCK最年少出演を成し遂げたバンドマン時代

FUJI ROCKに史上最年少出演

まずは2001年から2004年。これはもう、屈辱の歴史ですね。大学入学時から音楽活動をやっていました。ガチンコのインディーズで、自分たちでレーベルを作って。そして大学3年の時に、FUJI ROCKに出れることになったんです。

[司会] すごい!で、ここから転落というのは……?

まさに転落です。これをきっかけにテレビやラジオに取り上げてもらって、レーベルからメジャーデビューの話が来ました。偉い人が出て来て、その人たちの前でパフォーマンスと面談をするんです。「で、君たちは何を目指してるのかな?」と聞かれるわけですよ。

そこで、「日本じゃ物足りないですね。海外ってどうやったらいけるんですかね」みたいな話をしたんです、生意気に。そんなこと言ったらもちろん相手は気分悪いですよね。そんな感じの態度をしていたのでいろんな話が進まなくなっていきました。

商品としての音楽と、趣味としての音楽の違い

当時の自分の何が悪かったかというと、音楽を商品だと思っていなかったところです。自分たちはアーティストだと思ってしまっていた。一方で企業にとって音楽は商品で、マーケットに合う「商品」を作って売らなくてはいけない。そのマーケットは当然国内です。そんな中、わざわざ時間を取って会ってもらったのに、「国内には興味ない」みたいな態度ではどうしようもないです。

しかし、これは大きな学びになりました。当時は「コノヤロー」と思いましたけど、自分たちがやりたいものをやっていても商売にならないということに気づきました。人が欲しがらないものは趣味でやるべきだと。ちゃんと価値が「お金」という指標で評価されないことは商売にはできません。そうでなければ、それは趣味でやるべきだし、商売をするからには価値を認めてもらうことは大前提です。

その後、バンドの時代の縁で音楽系のネットベンチャーに入社しました。

 

[司会] でもまぁ、FUJI ROCKに出てからスタートアップやってるという人もあまり聞かないですよね。

確かにそうですし、そもそもFUJI ROCK出て音楽やめたっていう人自体あんまり聞かないですよね(会場笑)。

 

痛い思いの中で気づいた、インターネットの可能性

痛い思いをしながら大きな学びも得ましたが、同時にすごく助けられたものがありました。それがインターネットです。

無名の自分たちのバンドを宣伝するためにウェブサイトを作ったり、他のバンドの人と交流したりということ全てがインターネットを通じてできて。自分でサイトを作ったりコードを書いたりしながら、ウェブサービスをどう作るかや、ユーザーの体験をどう作っていくべきかということも自然に学ぶことができました。

 

2006-2008年 
新サービス立ち上げマシーン時代

インターネットビジネスに可能性を感じたサービス立ち上げ期

音楽ベンチャー時代では、キャリアの公式サイトを担当しました。企画を通す難易度が高いということ以外は、とてもいいビジネスモデルでした。ところがキャリアへの企画がなかなか通らない。当時はジャンルごとに音楽情報着メロサイトを連発して稼いでいこうという作戦だったんですが、企画を考えてもキャリアの人に「HIP HOPなんてよく分からないですね。」とか言われてしまうんです。

しかし実際にサイトの企画を通してビジネスをやっていくと「ネット儲かるな」と思いました。大きな初期投資も必要ないですし、これなら自分でもできるビジネスだと。でも、まだやっていけるか不安な気持ちがありました。そこで、「だったら一番でっかいところへ行ってちょっと勉強しよう」と思ったんです。それでヤフーで修行しようと思いました。

 

でも、今思えばサービス作りは大手に入らなくてもできる。やり始めればやれるようになる。「大手に入って勉強しよう」というマインドそのものが、アントレプレナーからはかけ離れた、すごく未熟なマインドでした。でもヤフーはとってもいい会社で、気づけば4年もいてしまったんです。手がけるサービスも1,000万人近くユーザーがいるものもあって、予算も年間億単位を任せてもらって。仕事もめちゃめちゃ面白かったです。

 

起業を決意したきっかけとは

で、やめられないなと思っていたときに、偶然ある記事を読みました。「ビジネスで大成功している人は、30歳までに起業している」というものでした。焦りましたね。その全く信憑性のない記事にそそのかされて、起業することにしたんです。

 

2017年 スタートトゥデイにM&A

[司会] それが2016年の夏頃と。そして今年2017年。10月くらいに発表されたんでしたよね? ZOZOTOWNを運営するスタートトゥデイさんに買収されると。この写真は……プライベートジェットですかね?

はい、この時はまだ夏で、M&Aの話も出てなかった。金曜の朝に前澤さんから「金山くん月曜にNY行く?」とLINEが来ました。理由を聞いたら、「会議があるからちょっと来てよ。」と言うんです。

 

そもそもお付き合いは7~8年くらいあって、スタートトゥデイはうちのクライアントでもありました。行きの飛行機の中ではガチンコの経営会議やってるんです。その後に、IQONの今後のビジョンなどについて聞かれました。まだ具体的にはなっていませんでしたが、うっすら話が動き始めてる感じでしたね。

 

M&Aを決めた理由

[司会] 最終的に意思決定された理由は何だったんですか?

ZOZOSUITとプライベートブランドの話を聞いてです。それこそプライベートでも付き合いがあったので、ご飯を一緒に食べて、朝までビジネスの話をするということもありました。その中で、ZOZOSUITやプライベートブランドについて、こういう構想で、こういう思いでやっていてという話を聞き、これはすごい、と思ったんですよね。

 

僕らがやりたいのはサイエンスですが、それには膨大なデータが必要です。IoTという道具によってたくさんのデータを集め、そこから再現可能なサービスを作って世の中に出していく。

ZOZOSUITをこの規模で広めてデータを取り、そこからビジネスを作っていくという話を聞いた時に、それを我々だけでやるには圧倒的に時間がかかると思ったんです。時間的に追いつけない。

それまでは自分たちだって十分張り合えると思ってました。ところが今回ZOZOSUITの話を聞いて、これは無理だなと思ったんです。追いつけないと。そしてそのZOZOSUITの先にあるビジョンについても、自分たちが目指すものと同じところを見ているんだということが分かったので、それであれば一緒になった方がいいと思ったんです。

ZOZOSUITは「誰も取ろうとしていなかった、でも誰もが欲しいデータ」を取りに行くものです。もちろんいろんな意見があるし、100%は不可能ですが、それでも大多数の人が自分のジャストサイズを手にすることができるようになるというのは、大きな転換です。

今後の予定・展望

[司会] 今後はサービスを一緒に色々絡めていく感じになるんですか?

そうですね。ZOZOSUITで「サイズを測りました」だけではもったいなくて、そこから取ったデータを用いてサービスを提供していくことに価値があると思います。今後ZOZOSUITを起点とした様々なサービスを出していきたいと考えています。

 

[司会] このExitは金山さんにとってハッピーなものでしたか?Exitって、経営者にとっては様々な思いがあったりするものだと思うのですが……。

ハッピーとかアンハッピーとか、そういうものではありません。淡々とやるべきことをやる。僕にとっては一番ハッピーな瞬間ってExitの時ではないです。IPOしたとしても、そういう思いにはならないと思います。そうじゃなくて、僕らのミッションやビジョンを達成できたと思えた時、その時がハッピーになれる瞬間なんでしょうけど、たぶんその瞬間って生きてる間には来ない。だから、感情を持って振り回される方が良くないと思ってます。

 

[司会] じゃあ特に嬉しいとか悲しいとかはなく、ただ進むべき方向に淡々と進んでいるだけと。

そうですね、全くないですね。がっくりもしなかったですし、ハッピーにもならなかった。一つのポイントを通過したという感じですかね。

 

[司会] 今後こうしていきたいという展望はありますか?

多くの人に使われるサービスを作っていきたいですね。自分たちが今まで時間をかけて来たのと同じかそれ以上の距離を、より速く進んで、大きく、多くの人に使われることを目指してやり続けたいですね。それが一番面白いです。

 

あと、最近組織が面白いんです。プロダクトはもちろん面白いんですけど、それと同じくらい組織作りが面白いです。今のメンバーと働くのがすごく楽しいです。めちゃめちゃいいエンジニアが集まって来てくれてるんです。デザイナーもビジネス職も、みんなそうです。そういうみんなの力を、この会社に来たことでもっと開花させたい。100を150やそれ以上にしていきたい。成長する瞬間って目に見えるんですよ。それってプロダクトにはない面白味があります。そうやってチームを強くしていって、もっと大きなことをやれるようになっていきたいと思っています。

 

[司会] じゃあ今はとっても楽しいんですね。

そりゃそうですよ。楽しくて仕方ないです。楽しくない時ってあまりなかった。瞬間瞬間では凹むこともありました。例えばずっと一緒に戦ってきたメンバーが辞める瞬間とか。当たり前ですが人間何かを失うって嫌なことなんですよ。そこは全然ロジカルじゃなく感じてしまう。頭ではわかってるんです。でもやっぱり気持ちがついていかなかった。いま思い返すと、凹んでた自分が嫌ですが。もっとフラットに淡々としていられる人になりたいですけどね。

よく感情的な人間だと思われるんですけど、そんなことないんです。熱いヤツだと思われがちだけど、そうじゃなくてただ声がデカいだけなんです。

 

[ Q&A ]

いろいろな関係者とのやり取りから学んだ重要なこと

Q1) 今回のM&Aにあたり、株主との関係はどうなりましたか? 既存株主の反対などはありましたか?

A1) 関係者との色々なストーリーについては、この時に限らず様々な局面がありましたが、人間性って普段は出ないんですよ。追い詰められた時にそれが出てくる。なので、皆さんもキワに立たされた時にこそ、冷静な判断をするべきだと思います。そうなった時にダサいことをやったり、私利私欲に走ったりすれば、それがその人の真の人間性ということだと思います。だから、そういう時こそ、冷静に判断をするべき。やばいなと思った時こそ、深呼吸をして、周りを冷静に見て、長期的視点で考えることが大切だと思います。

良いチームを作るための仕組みづくり

Q2)  組織が面白いということでしたが、面白い人が集まってくるようにするために、何か変えたことはありましたか?

A2)  採用プロセスを変えて、プロセスから属人性を排除しました。それまでは、その人の経歴や、自分がピンときたという理由で採用していたのですが、なかなかうまくいかなくて……。

ビジョンを作り、それを定義する行動規範を7つ作って、それに当てはまるような行動をしている人を採用するというルールにして、それを複数人でみるという方法に変えました。すると、採用した人の活躍度合いや、退職率などが劇的に改善したんです。

僕は経験よりも、学習の力の方が大切だと思ってます。行動しそこから何を学べるかということが大切だと考えています。なので過去の経験よりも、その人の行動規範や価値観を重視していますね。

これから人の意思決定に起こる変化

Q3)  これからのファッション業界にどんな変化があるとお考えですか?

A3)   ファッションに限らず、人の意思決定に劇的な変化が訪れると思います。人の意思決定は完全に二分します。興味のあるもの&好きなものに対する決定と、必要に迫られてするもの。前者の、興味があったり好きだったりするものについては、人は検索し探索し、時間をかけて意思決定します。僕はスニーカーが好きで集めているのですが、スニーカーを探すために5時間は平気で時間を使えますね。

一方で、好きじゃないけど必要なものについては、今後は検索や探索を人がやらずに、機械が代替します。例えば音楽にさほど興味のない人が「ちょっとHIPHOP聞いてみようかな」と思った時、今ならSpotifyなどのシステムによってオススメされたHIPHOPを聴くんじゃないでしょうか?自分で探索はせずに、機械がいい感じにまとめてくれているものを消費する。

 

ファッションもそうだと思ってます。ファッションが好きな人はZOZOTOWNや楽天、ブランドさんの店舗などいろんなショップを見て服を探すけれど、ファッションに興味のない人にとって、今のほとんどのサービスは解決にならない。服は着ないといけないから選ぶけど、結果自分の服に自信がないっていう話になるんです。

今後は「服を買わなきゃいけない。選び方に自信はない。どうせ買うなら似合っているもの、TPOに合うものを選びたい」というニーズに応えていかなくてはいけない。それを、サイエンスで叶えていく必要があるんです。「個々人に似合う服の購入」を再現するサイエンスです。

他者の資本を入れることについて

Q4)他人の資本を入れることに抵抗はありませんでしたか?

A4)最初は自己資本でやっていて黒字も出ていたので、他人の資本を入れることを検討していませんでした。考えが変わったのが、Googleがファッション分野に参入してきた時です。Boutiques.comというサービスで、like.comという画像認識の会社を買収したあと最初に立ち上げたサービスです。

これをみてやばいと思ったんです。Googleがアメリカでいいサービスを作ってユーザー基盤を持ち、すでに大きく強くなったものが日本にローカライズしてやってきたら、自分たちの勝率が下がってしまう。Googleが来る前に日本で突き抜けるしかないと思いました。そのためには時間をお金で買うしかない。受託をやめ、資金調達し、プロダクト作りに専念しようと思ったんです。

金山さんにとっての目標とは

Q5)  目標にしている人や参考にしているどなたかの考え方などがあれば教えてください。

A5)  目標は常に「昨日の自分」ですね。一日を振り返って特に昨日の自分よりも前進していないと感じたら、むりやり腕立て伏せをやったりして昨日より前進させます。とにかく昨日よりも進歩したいと日々考えています。

他のサービスをみて、「自分だったらこうやるな」と考えることはあります。そうすることで、自分が何を大切にしているかなどを確認しますね。


起業前からユニークな経験をされ、起業後もなんども重要な局面をくぐり抜けてきた金山さん。それらのお話はとても刺激的で、そこから培われた考え方には感じ入るものがたくさんありました。金山さんの終わらない挑戦は、これからも続いていきます。

 

金山さんが手がけるIQONについてはこちらから

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「ファッションを数値化する」をミッションに、金山さんがリーダーを務める「スタートトゥデイ研究所」のWebサイトはこちらから

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