大量生産から適量生産へ。デジタル機械を使うからこそできる、「つくりたい」という素朴な気持ちに寄り添うものづくり/ イベントサロン with FUSION_N レポート

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2017年7月11日、神田錦町にあるコワーキング&シェアオフィスFUSION_Nにて、FUSION_NとPeatixの共催となる「イベントサロン with FUSION_N」を開催しました。

今回のテーマは「伝統と革新」。古いものと新しい流れが共存する神田錦町にぴったりなテーマで、一見相反するものを共存させながら活躍する、4名のゲストをお迎えしました。

 

大量生産から適量生産へ。デジタル機械を使うからこそできる、「つくりたい」という素朴な気持ちに寄り添うものづくり

一般社団法人デジタルファブリケーション協会 代表理事/ファブラボ渋谷 チーフディレクター 梅澤 陽明氏

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ファブラボ渋谷の梅澤と申します。ファブラボというのは、世界的なものづくりネットワークの活動です。最近メディアでよく聞くのは3Dプリンターとか、第4次産業革命とか、本で言うと『メイカーズ』、あとIoTとかかな?そういった領域が近いところです。

ファブラボ:世界に広がるものづくりネットワーク

これはオランダにあるファブラボの様子です。3Dプリンターが手前のテーブルにあって、奥に行くと木工ができる場所があり、この辺で電子工作をしています。ここでは別の電子工作チームがいて……。じつはこれ、会社でもなく研究所でもなく、ごくごく一般的な地域の中にあるラボの様子なんです。

ファブラボは、地域のものづくりの研究室、地域のための町工場というような役割を持っています。

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世界中にファブラボがあり、年々倍になってくと言われています。経営がうまくいかないところはクローズしなければいけません。このファブラボ渋谷は、5年間閉じずに進めてきております。

ファブラボ渋谷はどんな場所?日本のファブラボの状況は?

ファブラボ渋谷の日常の風景はこんな感じです。3Dモデリング、3Dプリンティングをするためのソフトウェアを開発した人が紹介に来ていますが、この人は海外のファブラボのメンバーです。海外のファブラボメンバーが日本に遊びに来た時にファブラボ渋谷に寄り、お互いの知識をそこで共有し合って、日本と海外のプロジェクトが続いていくということが起こったりします。また、デジタル工作機械をどうやって活用できるか座談会で考えてみよう、という企画も毎週のように開かれていました。

 

ファブラボ渋谷はNHKの近くにあるので、NHK教育テレビで活動されているアーティストさんがここで作品作りをしたり、建築家の方が西洋美術館のパズルを作って、世界遺産に登録される流れに向けた活動をしたりしてしました。

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日本国内のファブラボは北は仙台、南は浅田になっていて、全国に16か所あります。それぞれ独立採算制になっているので、ファブラボという意識は共有しているけれども、お財布は別で活動しています。

ファブラボが提供しているツールとナレッジ

ファブラボには、一通りの機材を揃えましょうという世界的なルールがあります。機材のメーカーや種類が厳密に決まっているわけではないですが、キッチンに例えるのであれば、包丁、まな板があってコンロがあって鍋があって……というように、必要な基本セットは揃えましょうということです。

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世界の1,000か所ほどにファブラボがあると、みんな旅行して来るんです。各地のファブラボに行った時に基本セットが揃っていれば、いつもと同じ状況でものづくりができます。これらの機材の特徴は、コンピューター上で作ったデータをインストールすると自動的に加工ができるということです。比較的安全で、小さな子も安心してものを作ることができますし、作ったデータをメールに添付して簡単に共有することができるんです。

 

「ものを作りましょう」って言っても、どこから手を着けたらいいか分からない。そこにクックパッドのレシピのように「とりあえずこのデータ通りにやると、このベースラインまでできますよ。」というものが共有されていると、ベースラインのところまではそれで作り、そこにそれぞれの好みでアレンジを加えることができるわけです。

日本のファブラボの一つとして、渋谷ファブラボが手がけるプロジェクト

私、前職ではショベルカーを設計していました。今は打って変わっていろんなファブラボを作ってます。例えばファブラボをスーツケースに入れて、東ティモールをフィールドにして活動しています。年に1度は東ティモールへ行って、現地の人たちと一緒にものを作り、生活の課題を改善していくというプロジェクトです。

 

国内ではどんなことをしているのかというと、「デジタル工作機械を使ってできること」です。店舗のショーウインドウを作ってみたり、企業のプロモーションも手がけています。

 

例えば、日産のお守りを作るプロジェクト。100家族分のお守りを作りたいというアイデアが出たのですが、それぞれ1つずつしか作らないという究極の小ロット生産に便利なのがデジタル工作機械。デジタル刺繍ミシン、デジタル印刷機というものがあるので、それを組み合わせて150家族分ぐらいのお守りを作ることができました。

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デジタルものづくりのお手伝いをしながら、新しい価値を考えていくことを、一つの「革新」と考えています。皆さんLoftに行きますよね。デジタル工作機械を使ってLoftにある商品をカスタマイズして、オンリーワンのものにしようというサービスを始めました。「&Fab(アンドファブ)」という名前のスペースで、渋谷店、梅田店、最近オープンした銀座店の3店舗で進めています。

 

作るものはほんと人それぞれでで、お写真をマグカップに印刷をしたり、おじいちゃんおばあちゃんに、こういう升を作ったり。これを始めてから升の在庫切れを起こしたっていうのが一つ自慢です。他にも、TSUTAYAやソニーにある工作工房も企画運営しています。

 

ファブコーナーのスタッフ育成にも関わっています。東急ハンズや、ホームセンターのカインズも店舗の中にお客様向けの工房を作ったりしていて、私たちも協力をしています。

 

子どもさんにも触ってもらいたいので、お子様向けに、「トヨタのプリウスの電源を使ってデジタル工作機械を動かしてみよう」というプロジェクトをやりました。実際に3Dプリンターとレーザーカッターを動かしながら、子どもたちと一緒にデジタル工作を楽しむプログラムです。日産ともやってます。日産とは東北巡業をしようというプロジェクトをやりまして、東北4県10か所くらいを、工作機械を積んだ車と一緒に小学校に展開しました。

 

レーザーカッターという、木材を焼いたり焦がしたりすることができる機械があるんですが、お子様に描いてもらったイラストをスキャンしてデジタルデータにします。そのデータを使ってレーザーカッターで木材を加工すると、こんなキーチェーンができますよと。簡易なワークショップですけれども、こういったものを通じながらデジタルものづくりに触れてもらってきています。

 

ものづくりの仕組みをちょっと変化させて、社会に少しの変化を起こしたいなと思っているのが、このデジタルファブリケーション協会であり、ファブラボの活動です。

 

[Q&A]

「難しそう」「自分には無理」というハードルをどう乗り越えさせる?

[Q] 電子データってなんだろう……という人から見ると、3Dプリンターとかレーザーカッターとかってハードルが高くて、自分に使えるのかなって不安があるんです。そういうハードルや敷居を、どういう形で解消していますか?

 

[A] 無理強いはしたくないですね。ただ、「誰かに向けて何か作りたい」という動機があれば、そこに向けてのお手伝いを工夫しています。例えば手で絵は描けるのであれば、スキャナで読み取ってデジタルデータ化しましょうとか。それぞれの方の興味を聞きながらと心掛けてやっています。

あと、面白かったのは、渋谷はすごくIT企業の方が多いですが、あるIT企業に勤めてる方が、「木材に触れたいから」と工房に来ました。その人は北海道生まれで、森に囲まれた生活をしていたけれど、今はディスプレイしか見てないので、木材を使って何か作りたいと。何というか、ヒーリングサロンみたいだなと思って。だからきっとどこかにきっかけが生まれるのかなと思います。

ファブラボによってものづくりをどう変えていきたい?

[Q] ものづくりの仕組みを変化させていきたいと仰っていましたが、ファブラボがあることでものづくりの仕組みがどう変化していったらいいなと思いますか。

 

[A] 大量生産のスタイルを適量生産に変えていきたいんです。自分のものは自分で作るということが、ファブラボの活動のスタートにあります。

その中の一つが、Loftの店内に並んでいる大量生産の商品にカスタマイズを加えることで、オンリーワンのものにするということ。そうやって一つの適量生産のルートを作っていると感じていますが、日本での適量生産とは何なのかというのは考え続けています。

ただ、色々難しい部分もあって……100円ショップに行けば物は豊富に揃っているし、実はそんなにみんなものを作りたくなくて、買いたいし、ネットでポチってしてる。でもそういった状況の中で、IoTや第四次産業革命は、衰退した町工場をどう盛り返すかということなどで求められている力だと思っていますので、そこに皆がどう関心を持っていくのか。その中でどう次のつくり方を考えていくのかということを考えていきたいなと思っています。

 

ファブラボの場で起こる人と人とのコラボレーション

[Q] 人と人のコラボレーションの部分に関心があります。ファブラボの現場で参加者の間でコラボレーションが起き、何か新しいものが生まれるというような創発的な動きがあればご紹介頂きたいです。

 

[A] ものづくりの場所の観点で言うと、その場に10人いたら10人知識が違うんですね。ある人がやりたいことに対してスキルが不足している時に、そこが得意な人を引き合わせてあげるということはよくやっています。仲介役というか、縁側のような存在になりたいなと思っています。

特に印象深かったのは……ある時ちょうど同じ時期に、3Dプリンターを学びたいという大学生と中学生が来たんです。お、一緒にやったらいいじゃんということで彼らは一緒に3Dプリンターを学びました。さらにその中学生はデザインを学びたいと言い始めて、大学生と一緒にその中学生にも教えたんですが、圧倒的に中学生の方が上手かったんです。その中学生の方は、中学校がつまんないからうちに来てたのですが、そういう才能を潰してしまうのは、少しもったいない世の中だなあと思ったりもしました。

 

諸外国と日本のデジタルものづくりの違い

[Q]私もIT企業で製造系のお手伝いをしていたので、すごくわかるところがたくさんあるんですけど、日本って元々「メイドインジャパン」ということで、ものづくりに対してものすごく熱い想いもあったと思うんです。その中で、海外のものを取り入れたり、日本のものを出していくのはすごく面白いと思うのですが、見ていく中で日本と海外のものづくりの違いみたいな物を感じたりすることがあれば教えて下さい。

 

[A] デジタルものづくりの領域、特に3Dプリンティング、3Dモデリングの領域で言うと、日本が圧倒的にやっぱり遅れているんです。例えばアメリカでは、オバマ政権の中でものすごく予算をかけて学校に3Dプリンターと3Dプリントを普及させました。

日本は私ども以外にも色んな団体がいて、日本の中でデジタルものづくりやプログラミング教育を推進していますが、ボトムアップでなかなか進まないところがすごくもどかしいですし、遅れてしまうだろうなと思っています。もうそうとうな周回遅れになりそうだなぁとは思ってます。話すと長いので、あとでじっくり話しましょう (笑)


デジタル工作機械を使うからこそ、アナログな素材をも自由に使いこなし、「これを作りたい」という思いを叶えることができる。個人の思いを叶える「適量生産」が私たちの手によって広がっていったら、もっとワクワクするプロダクトが生まれる気がします!

あなたの近くのファブラボはどこ?できたるファブリケーションについて詳しくチェックしよう!

▶︎ デジタルファブリケーション協会のページはこちら

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