世界有数の古書店街、神田神保町。古書店はどうやって生きている?デジタル書籍隆盛の時代に、紙の本・古本がもつ価値とは / イベントサロン with FUSION_N レポート

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2017年7月11日、神田錦町にあるコワーキング&シェアオフィスFUSION_Nにて、FUSION_NとPeatixの共催となる「イベントサロン with FUSION_N」を開催しました。

今回のテーマは「伝統と革新」。古いものと新しい流れが共存する神田錦町にぴったりなテーマで、一見相反するものを共存させながら活躍する、4名のゲストをお迎えしました。

世界有数の古書店街、神田神保町。古書店はどうやって生きている?デジタル書籍隆盛の時代に、紙の本・古本がもつ価値とは

かげろう文庫 代表  佐藤 龍氏

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かげろう文庫の佐藤と言います。伝統と革新というテーマなので、本屋さんとこの神田の地域の特殊性、ざっくりとした神保町の歴史と、古本屋さんの営業形態みたいなのをご説明したいと思います。僕自身は、神田古書店連盟というこの地域のまとめ役みたいな役員と、世界の本屋さんの集まりの理事をやっていて、外に向けての宣伝や渉外を担当しています。

144もの古書店。世界一の本の町、神田神保町の歴史

ざっくり駆け足で古本屋さんの歴史を話すと、この町は大体明治の初年くらいに学校ができていったところから始まって、ちょうど135年ぐらい歴史があります。

現存している本屋さんだと、100年以上続いているものが大体15店舗、50年以上の店は50店舗くらいあります。現在は144店舗の古書店があります。新刊書店では約20店舗で、連盟非盟店が20店舗くらい。その他色々入れると、大体200件くらいの本屋さんがこの地域に集中しています。それと出版社さんが大体今50社くらい。確実に世界でも有数、僕から見たら世界一の本の町です。

 

このように長く続いてきた特殊性の一つは、村みたいな要素です。僕は高校生の頃からこの辺に出入りして、ちょうど30年くらいになりますが、こんな時代になってもすごく田舎の雰囲気がある。

その要因は老舗が多いこと。スポーツ店街、楽器屋、本屋、あと出版社ですね。ほぼ同じ時期に商売をスタートしてるんです。一番多いのは明治の終わりくらい。そうするとその一族が、他業種……例えば本屋が出版社、楽器屋やスポーツ店と結婚したりして、同族が非常に多いんですよ。

そうするうちに、地価高騰で千代田区から若年層がどんどん出て行ってしまって、昔から土地を持ってるとか、長く借りて住んでるにしろ、老舗の人しかいない世界になって。そうするとそれが町の基盤になって、非常に地縁血縁みたいな繋がりが大きいんですね。そういったものが神保町、もしくは神田の特徴だと思います。

古書店の商売を「伝統」という側面で見てみると

そんな街での古書店の商売を「伝統と革新」という角度から言うと、144店舗の各店が、何十年もかけて専門店化を続けてきたんですね。それが一番の特徴だと思ってます。

昔から景気が悪い悪いってのは、どの本屋さんも出版社さんも言っていますが、60年くらい前の昭和30年に「ほんとにこれは危機的だ」という状況になって、それで始まったのが古本祭りだと聞いてます。

 

要は小売りをほとんど相手にしてないんですよ。図書館とか、美術館とか、一部のコアなコレクターの方しか相手にしてこなかったんで、従来の売り上げが下がった時に、秋の読書週間に乗せてお祭りを始めたと。確か今年で58年目だったと思います。

古書店の「本の売り方」とその理由

この10年くらいでこういうシフトは進んだと思います。僕が覚えてる限り、古本屋さんというのは10時〜11時くらいにお店が開いて、5時〜6時になると一斉にシャッターを閉める。で、土日が休み。そうすると、まっとうな商売をしている人は本は買えないわけです。この人たち何やってるんだろう、これでどうやって飯食ってんだろうと、昔はすごく不思議でした。

しかも非常に高飛車なんですね、本屋さんが。この本に触るなとか言うんです。触らないでどうやって買うんだよと。バイト代握りしめて行って、あの本を見せて下さいと言ったら、「買うのかお前は」と聞かれて……買うか決めるために見たいんだとか、ずいぶん喧嘩した覚えがあるんですよ。

 

47歳になった今になって気付いてきたのは、「彼らはわざと言っている」ということです。敷居を高くしたり、つっけんどんになるのは、もしかしてわざとやってるんじゃないのかと。僕自身も、自分が商売やってる時に、すごくそれを感じるようになってきたんですね。

その理由っていうのは、本を買うとか本を集めるっていう行為は、かなりマイノリティだということです。実際に本を買うなら、今はアマゾンやネットで買う方が圧倒的に多い。そういった中で、本屋さんで本を見つけたいという世界には、特定のコアなお客さんしか必要ないんですね。

 

それがずっと伝統として続いてきて、僕自身もそうやって色んな方に教わって生きてる中で、コア化というか差別化、「神保町に来て本を買う」ということ自体がプレミアなんだと気づいたんです。

その本にたどり着くのも結構大変です。各書店の店先では100円の本を売っていますが、そこの奥にはほんとに博物館級の本が眠ってます。普通の人は絶対見れない。そこまでたどり着いてもらうというスタイルの商売をしてるのは、伝統だと思います。

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世界的にも衰退している古書店街。神田神保町の古書店が存続している理由とは

もちろん他の国にも古書店街はありましたが、ロンドン、パリ……今、ほとんどの国で滅びかけてます。かつては50〜80店舗あったところが10〜20店舗に減り、ほとんど通信販売やインターネット販売に移行してしまって実店舗がない。世界的にそんな流れの中で、神田神保町が古書店を140店舗も維持している理由の一つは、そういうコアなビジネスと、さっき言ったような地縁血縁みたいなかなり濃厚な繋がりですね。

 

今日ここに来ている方にお伝えしたいのは、超専門的化されてて140店舗以上あるので、確実に言えるのは「どんな趣味を持っていても、どんなことを調べてても、見つからない本はない」ということです。専門的化されていて且つ、横の連携があるので、ある書店で探している本がなければ、ほとんどのお店はそれを置いていそうな店を紹介してくれます。

ただ一つだけ敷居があるんですよ。そうやって入りこむことに、彼らはわざとハードルを設けているので。でもそこさえ乗り切ればストック数も取引量も、凄まじく多いです。一つベールが掛かってるので見えにくいんですけれども。

サブカルから古典籍まで、世界一のストックを持ってる町なので、何かそういったものを探したいときは、ぜひ回ってみて下さい。怒られたりだとか、ちょっとだけ嫌な思いをすることもあると思います。でもそこも魅力の一つだと考えているので、もし何かきっかけがあれば古本屋、もしくは新刊書店さんでもいいんです。回って頂けると嬉しく思います。

 

[Q&A]

古書店に入り込む「ハードル」の乗り越え方

[Q] 最初のハードルだけ乗り越えればということでしたが、それってどうしたら乗り越えられるんですか。本が好きという情熱なのか、それとも礼儀正しさなのかとか……。

[A] 一つはやっぱり情熱ですよね。ほとんどの本がデジタルとかで代替えが可能なものです。文庫でも「どうしてもあの表紙の文庫本が欲しい」とか、「今でも出てるんだけど、むかし子どもの頃にもらった、ザラザラの紙の版の本が欲しい」とか、そういう動機があるかどうかが一番大きいんじゃないかと思います。

 

私たちでも本を売り込める?古書店で高く価値のつく本とは?

[Q] あと、古書店さんには本を売ることもできるんですよね。

[A] はい、やっております。高くなるのは専門的な本です。ベストセラーってほとんど値段にならないです。100年前であっても、その当時たくさん出た本というものはなかなか価値がつかない。高値がつくのは、どちらかというと、その時みんな捨ててしまうような本です。ジャンプでも週刊誌でもなんでもいいんですけれども、誰もが捨ててしまう本が100年経つと値段つきます。ばかばかしいと思えるような本が、結果として高くなることって多いんで、ちょっと調べてみれるとおもしろいと思います。

映画のチケット1枚だとか、パンフレットなんかもそうです。やっぱり子どもの本なんかは高いんですよ。綺麗な状態で10年100年生き残るって非常に大変ですから。そういったものはやっぱり値段がつくことが多いですね。

 

売った古本を、別の古本屋で発見することも

[Q]  佐藤さんが売った本が、別の古本祭りで発見されることがたまにあると伺ったんですが、それってどういうことなんですかね。コレクションしたのに、また手放しちゃうんですか。

[A] 図書館なんかは、重複本を簡単に放出してしまうんですよ。第何版かとか、コンディションとかあまり気にしないですから。単純にそのデータでタイトル、出版社、刊行年がマッチしたら重複本です。美術館や図書館に売る量って多いんで、ほとんどの図書館はそういう書籍を無料で放出しちゃうんです。するとそれを拾いに行く人たちもいて、またそれを古本屋に売りに行って……という形で本が巡るんですね。

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個人でも引っ越しなどで手放す方は多く、貴重書籍は実際お金になるんで、大きく取引されています。だから「おかえりなさい」っていう本が結構多いんですよ。タグなどで一応認識できるようになってるんです。鉛筆で印を付ける本屋さんも多い。僕自身、ロンドンの本屋さんで自分が売った本を見つけたことがあリます。だからやっぱり出回り方はすごく広いなと思います。

(司会) 本を買って、自分が所有しているつもりでいますけど、そういう話を聞くと、まるで本がパトロンを次々変えて旅しているみたいですね。本か人間かどちらが主体なのか(笑) 不思議な感じがします。

 

デジタル書籍隆盛の中での、古書の存在意義とは

[Q] 図書館は同じ本であれば、版が違っても気にしないとのことですが、一方で古書店が「第何版なのか」にこだわる意義や意味は、どういうところにあると思われますか?

[A] 短くまとめるのは難しいんですけれども、例えば僕、文庫本は基本的に買わないです。文庫本は作品のどこを削ったのか、どこを修正したのかがほとんど書かれてないからです。例えば、物語にすごく感動したり、大切な記憶なってるものが一章丸ごと抜けてるとか……結末が違う本さえあるんですよ。

その作者がやったのならまだしも、後世の編集者が勝手にやったとしたら、どう思いますか?文庫はそれが非常に多いんです。現代仮名遣いに直しましたというのと、差別的だと思われる言語は削除しましたというのは非常によくある。でもどこが削除されたのかってのは明記されてないんですね。なので、基本的に僕は文庫は読まないんです。

その時代時代によって検閲ってものすごく厳しいんですよ。今でもそうです。ちょっとでも差別的な用語であったりだとか、もしくは思想的に偏ったものってのは、非常に厳しく流通段階で規制される。そういったのを突き詰めていくと、「一番最初のオリジナルはなんなのか」ということを知るために本の存在意義があると思っています。

典拠がわかる、どれがオリジナルなのかも分かる。だから僕は、あんまりデジタルも脅威に感じてないです。昔の本は青空文庫で無料で読めると思ってますけど、かなり改編されてます。結末が違ったり、勝手にカットされるというのは、僕自身は許せないんで、その本のオリジナルはどれか、この本はどの版なのかということにこだわるのは、それが一番の大きな理由です。


神田神保町の古書店が、世界でも随一の規模だとは驚きです! 古書が壮大な旅をしていること、当時の時代背景や、作者の本当の思いの記録を守るものとして大切な役割を果たしていることが分かりました。古書店街のベールの中は、とても面白い世界です!

神田神保町の古書店街に行ってみよう!

▶︎ 日本古書籍協会の情報を見る

▶︎ 佐藤さんのお店「かげろう文庫」はこちら

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