危機的な日本の伝統工芸を盛り返せ!産地の一番星をつくり「日本の工芸を元気にする」中川政七商店の挑戦/ イベントサロン with FUSION_N レポート

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2017年7月11日、神田錦町にあるコワーキング&シェアオフィスFUSION_Nにて、FUSION_NとPeatixの共催となる「イベントサロン with FUSION_N」を開催しました。
今回のテーマは「伝統と革新」。古いものと新しい流れが共存する神田錦町にぴったりなテーマで、一見相反するものを共存させながら活躍する、4名のゲストをお迎えしました。

 

危機的な日本の伝統工芸を盛り返せ!産地の一番星をつくり「日本の工芸を元気にする」中川政七商店の挑戦

中川政七商店 井上公平氏

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中川政七商店とは:江戸時代の書物にも載っている工芸メーカー

弊社が行っている「大日本市博覧会」というイベントの実行委員長的な立場をしています。中川政七商店がなぜイベントを行うのか、イベントを通じて何を目指すのかということをお話します。

 

中川政七商店は実は非常に歴史が長い会社でして、創業は1716年、江戸時代享保元年。昨年創業300周年を迎えました。 創業地は奈良で、元々奈良晒という麻織物からスタートしたメーカーです。江戸時代の書物にもうちの店が載っています。手織り屋ということでぎっこんばったんと機織りを使って作る伝統工芸を扱っています。

 

現在ももちろん麻も扱っていますが、それだけではなく日本全国各地の工芸品をベースに生活雑貨を製造・販売しています。ブランドもいくつか持っていて、7つほどの工芸を扱ったブランドがあります。 直営店もやってます。この辺りだと東京駅のKITTEとかGINZA SIX内など。工芸品を今の時代に合うようにアレンジして、今の生活の中で使って頂こうという会社です。会社の組織の売上高は50億円。おそらく工芸の世界の中では規模の大きい会社になるんじゃないかなと思います。

 

伝統工芸市場と危機的な今後の展望

そんな工芸業界なんですが、市場規模や今後の見通しを考えると、実はかなり危機的な状況にあります。

 

工芸のピークが30年前、バブル期と言われてまして、その時の産地の生産額は5,700億円あったと言われていますが、最近ではそれが1300億円、だいたい1/5くらいまで落ちています。当然ですが、商品が売れなくなり働く人も減っています。ピーク時は30万人いた工芸の従事者がいまは6万人くらい、これも1/5くらいに減っています。

 

さらに危機的なのが、工芸従事者の平均年齢が60歳くらいと言われていて、30代以下の工芸従事者が全体の5〜6%の3,000人くらいしかいないという危機的な状況になっています。 市場規模が縮小しているので、なかなかそこで働きたいとも思えない。メーカー自体も元気がなくなっている状況で、地元での評価もあまり高くないなど、色々な状況があって「作り手がものづくりへの誇りを失っている」ように思えるんです。

 

中川政七商店は、自社工場を持たないファブレスのメーカーで、全国の工芸メーカーや職人さんに、企画したものを作って頂いているんです。いまうちの会社だけ見ると、お店も増えて元気なように見えるんですけれども、20年後、30年後を考えると、お店で売るものを作ってくれる人たちがいなくなってしまうかもしれない。そしてそもそも、僕たちが300年間携わってきた、日本の工芸という素晴らしい文化自体もなくなってしまうのではということに、一番危機感を覚えています。

 

産地の一番星をつくり「日本の工芸を元気にする」プロジェクト

そういうわけで、10年程前から「日本の工芸を元気にする」という会社のビジョン掲げて、本業以外に色んな活動を始めました。 その中の一つが、産地を引っ張っていくメーカー作りのための経営コンサルティングです。産地に一番多いのは小さい工芸メーカーですが、その中に入り込んで、「産地の一番星」となってくれそうなメーカーを探すんです。

 

「地域のブランド力 = 個社ブランド力の総和」と考え、輝く一番星が身近に出てきたら、その後を追うように二番星、三番星が出てくるだろうという思いで、まずはリーダーになるような人たちを作っていこうという取り組みです。

 

その一例で、長崎県波佐見町という、有田の横にある焼き物産地のメーカーのお手伝いをした時の事例をお話しします。このメーカーは2010年当時の売上が8,500万円に対して、借金が1億5,000万とほぼ倍で、ほんとに倒産しかけていたんですけれども、コンサルで関わるようになって売上を3億円にすることができました。家族経営の小さい会社ですが、従業員も10人から20人となり、小さな雇用を生み出しています。いまではアパレル雑誌などで紹介されたり、ほんとにこの地域の一番星と呼べる輝く企業になってきてます。そのような取り組みをこの5年間に11社やっています。

 

衰退に追いつかない取り組み。次の一手は「産業観光」

ただ、こうした取り組みを続ける中で、次の課題が見えてきました。さっきの例でいきますと、その工房の躍進をきっかけに波佐見という産地自体が注目を浴び、地元企業の中からも二番星、三番星は確かにできました。大手メーカーによるものづくりなんかも始まりました。

 

しかしそんな状況の中でも、産地全体の出荷額がやっと下げ止まったのが2015年なんです。僕たちが波佐見でコンサルティングを始めたのが2010年なんですけれども、1社1社やっているのでは、産地の衰退にとても追いつけない状況になっています。

 

産地全体に一番星の影響を及ぼすために、次の一手が必要なのではと思いました。それが、産地に直接人を集めて関係人口・交流人口を増やすこと。僕たちは「産業観光」と呼んでいます。観光商品の販売もそうですし、大勢の人が行くことで、その地で働く人や産地のファンになってもらいたいという思いでやっています。

 

中川政七商店の取り組み:大日本市博覧会

その取り組みの一つが、我々が昨年行った「大日本市博覧会」という工芸のイベントです。弊社創立300周年のお祭りのイベントという意味もあり、全国5か所を巡回しました。2月の東京ミッドタウンから始まって、5月は岩手県、9月は長崎県波佐見町、10月新潟、11月地元奈良と開催し、合計7万人の方に工芸を楽しんでもらうイベントになりました。

 

僕たちが目指した役割は、「敷居が高い工芸のハードルを下げて、たくさんの人に知ってもらう」ということと、「地元の工芸を地元の人に知ってもらい、作り手の誇りを取り戻す」ということです。 私は「大日本岩手市博覧会」という東北のイベントを担当しました。昨年のゴールデンウイークの3日間に、岩手県公会堂という非常に歴史のある建物での開催です。地元の人に地元の工芸を知って好きになってもらわないと大きな動きにならないので、「岩手の人に岩手の工芸の素晴らしさを伝える」というコンセプトで作っていきました。

 

とっつきにくさを和らげるためいろんな工夫をして、例えば工芸マーケットとして全国の工芸品を集めて物販ブースを作ったり。地元の工芸を紹介するのが目的なので、岩手の有名な工芸品ということで鉄器や漆器のメーカーに出店して頂きました。

それからトークショーですね。地元のメーカーが地元の一般のお客さんに対して工芸の話をする機会が意外に少ないので、そういった機会を設けました。ワークショップをやったり、モノポリー大会を開いたり。あとは寄席とか。柳家三三さんという落語家さんに来て頂いて何かものづくりに関わるお話をして下さいとお願いしてやってもらいました。

 

実際に工芸を使って頂く場も欲しかったので、漆器レストランという企画をしたり。産地マルシェを開催したり、野外ライブをやったり。盛岡という町自体も非常に文化的でいい町なので、来てくれた人向けに街歩きイベントをやったりとか。あと工房見学。地元のメーカーと一緒に商品の開発をしたり、ライトアップをしたり、地元の学生さんにイベントの運営をお手伝いしてもらったりと、そんなことをしました。

 

その結果、この手のイベントにしては非常に珍しく来場者は1万8,000人。岩手県内74社の事業者にご参加頂き、非常に盛り上がったイベントとなりました。

 

イベントがきっかけで地域に起こった変化

実は地元の工芸が地元の新聞で紹介されることって少ないのですが、イベントをきっかけに新聞やテレビで取り上げられました。あと、これはほんとに嬉しかったんですが、イベントが終わったあとにも彼らが自主的に第二弾、第三弾のイベントを続けてくれまして。岩手の工芸を知って頂く切り口を増やせたというのが、非常にやって良かったところです。

 

最初の問いに戻るんですけれども、なぜ中川政七商店がイベントを行うのか。それは日本の工芸を元気にするため。そのためには産地を元気にしなくちゃいけない。そしてそのためには産地に人を集めなければいけないということで産業観光を盛り上げようと。そんなところが答えかなと思います。

 

最後に告知ですが、今年の10月の12日から15日、福井県の鯖江市というところでイベントを開催します。鯖江は、漆器とかメガネの産地になってまして、ここでも色々工芸のことを知っていただく企画をしてます。興味ある方はぜひいらして頂けると嬉しいです。ありがとうございました。

 

[Q&A]

人間関係も濃い地方で、「一番星をつくる」取り組みはすんなりいくのか?

[Q] 産地の一番星を作るということでしたが、「一番星になりましょう」って言た時に、「ウチは結構です……。」と目立ちたがらない方はいないのでしょうか。あと、村の中で一つの工房だけすごい盛り上がると、横のやっかみみたいなものはないのかという……ちょっとドラマの見過ぎかもしれませんが。そういう人間模様について伺いたいです。

 

[A] まず最初の産地の一番星ですが、うちから誘うことは基本的にありません。小さなメーカーさんで、借金があってほんとに必死なところからお声がけいただいています。 地元のやっかみとかなどは、なくはないようですが、一番星になるならそれに引っ張られてると突き抜けられないんですね。なのである種覚悟を持った、肝の備わったメーカーさんが突き抜けていく。で、「あそこができたんだったら俺たちもできるんじゃないか」という正常な競争状況が生まれ、それが産地活性化に繋がるのではいうのが、僕らの考え方です。

 

 

工芸品が買い手に選ばれる決め手とは

[Q] 中川政七商店さんが色々コンサルティングをしたりデザイン提案したりして、工芸品を手に取る方が増えてきたと思うんですけど、そういう方はどういう理由でそれを選んでいるとお考えですか。

 

[A]うちのお客さんは、30代〜40代の女性のお客様が6割くらいなんです。うちの店にで並んでるお皿と、もう少し安い、海外で生産しているお皿を見た時に、正直パッと見では違いが分からないかもしれない。ただ、うちの場合は、ものづくりの背景を含めてその商品についてきちんと伝えています。ちょっと高いんだけど、そこに価値を感じてくれて購入して下さるお客さんが多いです。そういうことって、もっともっと僕たちがやっていかなくてはと思っていて、いまお店を増やしてるのも、工芸の出口を増やしてくためです。

 

イベントもそうで、お店では伝えきれないところを補完する意味もあります。やっぱりこういうのは現場を見ると一番価値が伝わるんです。究極を言うと、産地に行って工場のおじさんと話して、その人が作ったものだと思ったら愛着って全然違うじゃないですか。なので、僕たちがイベントや産業観光を通じてやることは、そういった接点作り。お店でも、スタッフの接客を通じて、その産地のファンになってもらうことを、もっとできないかなと思っております。

 

産業観光って言葉自体は昔からあって、今も富岡製糸場とか色々あると思うんですけれども、基本的にはもう使われていないものなんです。僕たちがやりたいのはそうじゃない。いま動いている工場が一番面白いと思っているので、何か「”新”産業観光」みたいな文化を根付かせたいというのが、大きな目標ですね。

 

 

新しい取り組みに地元の人を巻き込むコツは

[Q] 僕もちょっと工芸に関わってるんですけれども、地元の方っていろんな行事があってこれ以上は無理、今までの縁を切ってまで新しいことはできないなど、いろんな理由があって巻き込みが難しかったりするんですけども、どういう風にアプローチされてるいますか? もう一点は地元の人って、作家さんに挨拶とかしてるんだけど意外と買わなかったりするんです。当たり前になるんで。知ってるから買わなくてもいいみたいな、なんか変な関係なんです。それをどう変えていったら良いのかを教えて頂けたら嬉しいです。

 

[A] 今回のイベントが成功した理由として、うちがよそ者だったというのは大きいかなと思っています。仰るように地元ではいろんなしがらみがありますが、僕ら奈良の会社なのでそういうのは分からず、代理店も補助金も一切入ってなかったんです。なので、ほんとに苦労しまして、なにも分からない状況で、こんなことをしたい、困ってるんだけどやり方教えてくれないかみたいに相談しながら数珠繋ぎ的にいろんな人を紹介してもらって……。ここは関係あるけどあんたらで行けよ、みたいな感じで放り込まれて作っていったので、ある意味それがよかったのかなと思います。

 

地元の人は地元の工芸品は買わないということについては、意外に正規価格で地元の人に販売するイベントが少ないという話を聞きました。B品市みたいなのはよくあるけれど、ちゃんとした立て付けで、ストーリーを含めて紹介をするようなイベントが結構ないらしいんですね。なので、そこはうちが入ってストーリーを含めて見せたことが良かったのではと思ってます。

 

 

現地に行ってもらうハードルを越えるには

[Q] ものづくり界隈の人を呼んで会をやったりするんですが、現地に行って見てもらうことの敷居が高くて……。行けばわかるとは毎回言うのですが、現地に行ってもらうために、やられてることや意識されてることはありますか?

 

[A] これはちょっと逆説的なんですけど、僕らのイベントは岩手で18,000人来たんですけど、東京のミッドタウンでは16,000人だったんです。岩手の方がじつは人が多くて。なんでかっていうと、東京って割とこの手のイベントたくさんあるんです。でも地方に行くとないんですよね。なので珍しいし目立ったというところがあって。そこって実はみんな気づいてないのかもと思いますね。なので地域でそういうイベントをやることが、もしかしたら一番目立つんじゃないかなと。

 

既存のイベントをリニューアルするとか、その地元でやっているイベントが、実は地元の方がほんとに望んでいるものではないのかもしれないので、そこはうちが関わることでお手伝いできるんじゃないかなと思ってます。


「日本の工芸を元気にする」ためにどんな打ち手が必要かを考え続け、一つひとつ形にしている中川政七商店さんの取り組み。次の一手となる「産業観光」も、私たちに新しい体験を提供してくれそうです。

中川政七商店と日本の伝統工芸についてみてみよう!

▶︎ 中川政七商店のWebサイトはこちら

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PeatixのマーケティングとPRを担当。Peatixの思いやサービス内容を伝える仕事をする一方、イベント・コミュニティ主催者の魅力やストーリーに迫るイベントサロンの運営メンバーでもある。人に会って話を聞くこと、自分の知らなかった世界に触れることが好き。